2025年の金相場は記録的な高値を更新し続けています。ニューヨーク先物は9月に一時1トロイオンス3,800ドルを超え、数年前の水準と比べると驚異的な伸びです。株式市場も上昇している一方で、米国の金融政策は利下げに舵を切り、景気の実態は弱含みです。こうした中で、金(GOLD)が「最後の避難先」として再評価されており、金価格の上昇は単なる投機ではなく、通貨制度と財政への不安を反映したものだと考えられます。この記事では、なぜ金価格がこれほど伸びているのか、その背景を一緒に確認していきましょう。
・金価格を押し上げる複合要因 ・米国の「ゴールドリザーブ再評価」という奇策 ・各国政府と中央銀行の金政策 ・グリーンスパン氏の「炭鉱のカナリア」発言 ・株式と金の関係 – ダウ・金倍率が示すもの ・今の最高値は通過点に過ぎない ・投資家への示唆 – 分散の中に金を組み込む ・まとめ – 「金の警鐘」に備える ・書籍紹介
金価格を押し上げる複合要因
1. 金融政策とインフレ期待
米国では2025年9月に政策金利を0.25%引き下げ、利下げを再開しました。低金利は金利を生まない金にとってプラス材料となります。米連邦準備制度理事会(FRB)議長のパウエル氏は9月の講演で、インフレと労働市場のバランスを取る難しさを認め、金融緩和が長期化する可能性を示唆しました。市場では10月と12月にも追加の利下げが織り込まれ、金は実質金利の低下を背景に買われています。さらに、ドル安が進行すると他通貨建ての金価格は上昇しやすく、米国政府の財政不安がドルの信任を揺るがしていることも見逃せません。
2. 地政学リスクと安全資産需要
ロシアのウクライナ侵攻や米中対立、世界各地の政治的不安定化は、投資家に安全資産への逃避を促します。9月23日のロイター報道によると、金は安全資産需要と米国の利下げ期待から最高値を更新し、銀やプラチナまで連れ高となりました。NATOがロシアへの強硬姿勢を示すなど、地政学リスクが高まるたびに金価格は上昇しやすくなるのです。
3. 中央銀行による積極的な金購入
世界の中央銀行は3年連続で年間1,000トン以上の金を購入しており、過去10年平均の2倍という記録的なペースです。欧州中央銀行の調査では、中央銀行保有の金は3万6,000トンに達し、総額4.5兆ドル相当と推計されています。金は今や外貨準備の27%を占め、米国債の23%を上回りました。中央銀行が金を積み上げる背景には、ドル資産への依存を減らし、外貨準備を多角化する意図があります。ワールド・ゴールド・カウンシルの「中央銀行金準備調査2025」でも95%の中央銀行が今後12カ月間に世界の金準備が増えると予想し、43%が自国の金準備を増やす意向を示しています。調査ではドルのシェアが低下し、金やユーロ・人民元の比率が上昇すると見込んでおり、外貨準備の分散化が進んでいることがわかります。
4. 投資家の動きとETF流入
個人・機関投資家の間でも金への関心が高まっています。ワールド・ゴールド・カウンシルの2025年第1四半期報告では、金ETFへの資金流入が前年比170%増となり、投資需要全体を押し上げたと分析しています。金貨・地金需要も5年平均を上回る水準で推移し、中国が主な牽引役となりました。金価格上昇にもかかわらず需要が堅調なのは、インフレや地政学リスクへのヘッジ手段として金を保有する投資家が増えている証です。
米国の「ゴールドリザーブ再評価」という奇策
日本経済新聞の指摘する「米国の奇策」とは、米政府が保有する金備蓄の簿価を歴史的な42.22ドルから市場価格へ引き上げ、含み益を財源に充てる構想です。米財務省は約2億6,150万トロイオンスの金を保有していますが、帳簿上の評価額は1オンス約42ドルに過ぎません。これを市場価格に引き上げると1兆ドル近い評価益が生じ、財政赤字の穴埋めに利用できるというのです。1934年にルーズベルト大統領が金の公式価格を35ドルに引き上げた際には、実質的なドル切り下げとなり、通貨価値が4割下落した歴史があります。
今回の再評価案もドル供給を増やす効果を持ち、ドルの信認低下を招きかねません。アメリカが金価格をたとえば5,000ドルで評価替えすれば財源は一気に増えますが、ドルの価値は大きく目減りし、金価格のさらなる上昇要因となるでしょう。この「奇策」が議論され始めていること自体、現行の通貨制度への不信が高まっている証であり、金の重要性を浮き彫りにしています。
各国政府と中央銀行の金政策
金は各国政府が外貨準備として保有する数少ない実物資産です。特に新興国では脱ドル依存を掲げ、金の積み増しが加速しています。
中国人民銀行は2024年11月に金購入を再開して以降、2025年7月まで9カ月連続で買い増し、7月末時点の保有量は7,396万オンスに達しました。7月の1カ月で2トンの金を追加し、金準備額は2,439億9,000万ドルとなっています。
⚫︎トルコ・ポーランド・カザフスタン
ワールド・ゴールド・カウンシルの統計によると、2025年7月にはカザフスタンが3トン、トルコ・中国・チェコが各2トンを買い増しました。トルコは2023年6月以来26カ月連続、チェコは2023年3月以来29カ月連続で買い続けており、ポーランドは年初来67トンの買い増しで今年最大の購入国となっています。
⚫︎アゼルバイジャン・カザフスタン
原油収入を蓄える国家石油基金(SOFAZ)を通じて金準備を増やし、外貨建て資産のリスクを分散しています。
⚫︎ウガンダ
ウガンダ中央銀行は2024年に国内の小規模採掘業者から金を買い上げるプロジェクトを発表し、今後2~3年間かけて準備金として蓄積する予定です。これは外貨依存を減らし、国内資源を活用する戦略の一環です。
こうした動きについて、米連邦準備理事会の論文は「金準備の積み増しは、必ずしもドル離れ(デ・ダラーゼーション)を意味しない」と指摘しています。多くの国にとって金は外貨準備を多様化する手段であり、金を買ってもドル資産を一定程度保有し続けるケースが多いのです。ただし、ロシアや中国、トルコはドルの比率を大きく減らして金を積み増しており、米制裁や地政学リスクが高い国ほど金へのシフトが顕著です。この流れが続けば、世界の通貨秩序に変化をもたらす可能性があります。
グリーンスパン氏の「炭鉱のカナリア」発言
かつてFRB議長を務めたアラン・グリーンスパン氏は2010年、「金は炭鉱のカナリアであり、主要通貨の価値が同時に下落するときに金だけが相対的に上がる」と述べました。炭鉱でカナリアが有毒ガスをいち早く察知するように、金価格の急騰は通貨価値の危機を警告しているという比喩です。当時の金価格は1,300ドル台でしたが、その後15年で倍増以上となり、グリーンスパン氏の予言が現実になりつつあります。同氏はまた、戦時下のドイツで金が「究極の決済手段」となった歴史を例に挙げ、国際決済における金の重要性を強調しました。
株式と金の関係 – ダウ・金倍率が示すもの
株式市場と金市場の相対的な価値を測る指標として「ダウ・金倍率」があります。これはダウ平均株価を金価格で割ったもので、株式がどれだけ金より高いかを示します。1999年にはこの倍率が45倍を超え、株式の割高感が極端に高まりましたが、2025年には12倍前後まで低下しています。これは株価が名目上は上昇していても、金に対する購買力では大きく減価していることを意味します。歴史的に倍率が極端に高いときは株式バブルのピークであり、極端に低いときは金が過大評価される局面です。過去のサイクルでは1929年の株式バブル、1970年代のスタグフレーション、1999年のITバブルといった節目ごとに倍率が大きく動きました。現在の倍率は長期平均より低いものの、1970年代の2倍割れには遠く、金の上昇余地を示唆しています。
今の最高値は通過点に過ぎない
ゴールドマン・サックスは9月のリポートで、中央銀行の買いが続くことを前提とした基準シナリオでも金価格が2025年末に3,700ドル、2026年半ばには4,000ドルに達すると予測しました。同社はさらに、投資家が米国債から金へ資金を移す動きが進めば4,500ドル以上もあり得るとし、米国債市場に投じられている資金の1%が金に流れれば5,000ドルに近づく可能性を指摘しています。インベストペディアの解説でも、FRBの独立性が脅かされ、政治介入により金利が不適切に操作されれば、インフレとドルの信認低下を招き、金価格を5,000ドルへ押し上げるシナリオが検討されています。
こうした見方を裏付けるように、金の需給はタイトです。ワールド・ゴールド・カウンシルによれば、2025年第1四半期の世界の金需要(場外取引を含まない)は244トンで、過去3年の平均的な水準にあり、金ETFへの流入増加が需要を支えています。また、2025年7月の中央銀行の純買いは10トン程度とペースは落ちましたが、それでもなお一貫した買い越しが続いています。供給面では金鉱山の生産が史上最高を更新しているものの、リサイクル金の供給は減少しており、消費者は価格上昇を期待して売却を手控えています。
投資家への示唆 – 分散の中に金を組み込む
投資を行う際には、株式や不動産、債券などさまざまな資産を組み合わせることが重要です。金だけに投資する必要はありませんが、ポートフォリオの一部として金を組み込むことは、インフレや金融危機、地政学リスクへの保険となります。インベストペディアでは、一般的にポートフォリオの5~10%程度を金に割り当てることが推奨されています。金は配当や利息を生まないため、全資産を投入するのは適切ではありませんが、通貨価値が減少する局面では大きな役割を果たします。投資手段としては、金地金・コインの現物購入のほか、上場投資信託(ETF)や投資信託、金鉱株、純金積立などさまざまな方法があり、自分のリスク許容度や保管コストに応じて選択すべきです。
まとめ – 「金の警鐘」に備える
金価格の高騰はバブルではなく、世界経済の構造変化や法定通貨への不信がもたらす必然的な流れです。グリーンスパン氏が「金は炭鉱のカナリア」と語ったように、金の上昇は通貨制度への警告であり、それを理解できる人だけが次のチャンスを掴めます。米国のゴールドリザーブ再評価という奇策が議論され、中央銀行がこぞって金を買い増し、投資家がポートフォリオに金を組み込む時代において、金は単なる商品ではなく、資産防衛の最後の砦です。はるか先の最高値を目指す長期上昇の途上にいる今、短期的な高値に怯える必要はありません。自分に合った資産配分の中で金を取り入れ、法定通貨のリスクから資産を守る準備を進めましょう。