今回は日本の「ディール下手」な政治が引き起こす市場リスクについて注意喚起したいと思います。2025年6月現在、日本を取り巻く政治イベントとして、G7サミットでの自動車関税交渉の失敗(7月初旬に追加関税発動の恐れ)、防衛・経済安全保障をめぐる外交の立ち遅れ、そして参議院選挙や内閣支持率低下に伴う政局不安があります。これらの要因が市場にどんなインパクトを与え得るのか、また個人投資家としてどう備えるべきか。それら総合的なリスクとその回避策を一緒に見ていきましょう。
・G7関税交渉失敗:自動車追加関税リスクに備えよ ・防衛・経済安全保障外交の出遅れが招く不安 ・政局不安:参院選と支持率低下が市場に影を落とす ・投資家が取るべき総合的なリスク回避策 ①資産のグローバル分散 ②安全資産・ヘッジの活用 ③為替リスクへの対応 ④セクター配分の見直し ⑤情報収集と機動的対応 ・おわりに ・書籍紹介
G7関税交渉失敗:自動車追加関税リスクに備えよ
今年6月のG7サミット(カナダ・カナナスキス)において、日本の石破首相とトランプ米大統領は通商問題を協議しましたが、米国による自動車関税を巡る溝は埋まらず合意に至りませんでした。米国は「貿易不均衡是正」の名目で日本車に25%もの高関税を課す方針を示し、日本経済の柱である自動車産業への打撃が懸念されています。日本側は関税措置の全面撤回を求めましたが、これが米側の態度硬化を招き、交渉は難航しました。当初、日本は同盟国として特別扱いされ追加関税を免れるとの甘い見通しがあったものの、結果的にその目算は外れています。
交渉決裂により、7月7日(実際の発動期限は7月9日)に日米双方で追加関税が発動される恐れが高まっています。日本から米国への対抗措置も含め相互に関税が上乗せされ、日本側の追加分は14%に及ぶ見通しです。これは日本の主要輸出企業にとってコスト増・競争力低下を意味し、自動車関連株を中心に株価下落圧力となり得ます。事実、この通商問題については日本国内でも不安が広がっており、ある調査では有権者の85%が米関税の影響を「懸念している」と回答しました。さらに深刻なのは、政府の交渉力に対する信頼の欠如です。約70%もの人が石破政権の対米交渉能力に悲観的だと答えています。日本政府のディール下手ぶりが内外で認識されていること自体、マーケットにとってリスク材料と言えるでしょう。
市場の視点では、追加関税リスクが高まる局面では投資家心理が冷え込みやすくなります。輸出企業の業績悪化懸念から日本株全体が売られる可能性があるほか、貿易摩擦の激化は世界的なリスクオフ(安全資産志向)を誘発しかねません。一般にリスク回避局面では円が買われやすい傾向がありますが、今回は事情が少し複雑です。日本固有の通商リスクが原因の場合、海外投資家が日本資産から撤退する動きが出て円が売られる可能性も指摘されています。実際、昨年秋の衆議院選で与党が苦戦した直後には、一時的に円相場が対ドルで急落し、輸出株の上昇を招いた場面もありました。もっとも「政治的不透明感の高まりは株式市場にとって明確なマイナス材料」であり、一時的な為替効果による株高があっても長続きしない可能性が高いと見る専門家もいます。自動車関税問題はまさに日本政治の交渉力不足が招いたリスクであり、発動を回避できるか否かで今後数ヶ月の市場動向が大きく左右されるでしょう。
防衛・経済安全保障外交の出遅れが招く不安
次に注目すべきは、防衛および経済安全保障を巡る日本外交の立ち遅れです。世界的に地政学リスクが高まる中、日本は同盟・友好国との連携強化や重要物資のサプライチェーン確保で後手に回っているとの指摘があります。パンデミックや米中対立によって、一つのサプライチェーンのボトルネックが産業全体を麻痺させ得ることが露呈しました。日本はエネルギーの90%を海外輸入に頼り、世界有数の貿易国家でもあり、そうした「ボトルネックの兵器化」リスクの直撃を受けやすい立場にあります。にもかかわらず、これまで日本政府の対応はパッチワーク的で、経済安保戦略に一貫性が欠けるとも言われます。
防衛面でも同様です。日本政府は2023~27年度で防衛費を合計43兆円規模(対GDP比約2%)へ倍増させる計画を打ち出しました。これは数十年ぶりの大幅増額で、防衛力強化への本腰を示すものですが、裏を返せばそれだけ従来は防衛体制整備が遅れていたとも言えます。米国や欧州が経済安全保障の新たな枠組みづくりやインド太平洋地域での安全保障協力を加速させる中、日本の動きは必ずしも迅速ではありませんでした。例えば、米国主導で先端半導体の対中輸出規制が議論された際も、日本の対応には時間を要しましたし、エネルギーやレアアース確保の外交でも出遅れが指摘されています。日本政府内でも経済安全保障を担当する新部署を設けたり法整備を進めていますが、その全体像はまだ模索段階です。
この「外交ベタ」の影響は市場にも波及します。万一、台湾海峡などで有事が発生したり、資源供給が途絶するような事態になれば、日本経済は他国以上に深刻な打撃を受けるでしょう。外交努力によるリスクヘッジが不十分であることは、将来の国際情勢悪化シナリオで日本株や債券が相対的に売り込まれるリスクにつながります。海外投資家から見れば、日本は地政学リスクの高い東アジアに位置しながら、自前のエネルギーも防衛同盟ネットワークも限定的な国です。交渉力や戦略に欠ける姿勢が続くと、「有事の際に真っ先に人質(hostage)にされかねない」脆弱性として映りかねません。実際、トランプ政権2期目の下で各国が自国第一主義に傾斜する中、日本も米国一辺倒の姿勢を改め、外交・経済面の多角化を図るべきだという提言も専門家から出ています。言い換えれば、日本が交渉下手なままでは国外プレーヤーの思惑に振り回され、市場もその影響を受けやすくなるのです。
もっとも、こうした中でも救いなのは、市場が政府の姿勢変化を敏感に評価している点です。例えば、防衛費増額方針の表明以降、日本の防衛関連株は顕著な上昇を続けています。IHIや三菱重工、川崎重工といった主要防衛銘柄は年初来で38%超も株価が上昇し、日経平均採用銘柄の中でもトップクラスのパフォーマンスとなりました。安全保障強化の波に乗り、ゴールドマン・サックスが算出する日本防衛株指数も史上最高値圏にあります。これは、日本が安全保障上の立ち位置を見直し始めたことを投資家が織り込みつつある証拠でしょう。欧州連合(EU)も7月に日本との首脳会談を予定し、防衛協力強化を進めています。こうした国際協調の動きが具体化すれば、日本株式市場においても防衛・安全保障関連セクターへの資金流入は続くかもしれません。一方で、対応が後手に回れば市場からの評価は厳しく、関連銘柄のみならず日本市場全体のリスクプレミアムが高まる(株価評価が低下する)可能性がある点には注意が必要です。
政局不安:参院選と支持率低下が市場に影を落とす
第三の論点は日本国内の政局不安です。7月20日には第26回参議院議員通常選挙が予定されており、直前の世論動向や選挙結果次第では市場が大きく反応する可能性があります。石破政権の支持率は、5月中旬に過去最低の27.4%まで落ち込んだ後、足元では米価政策の転換(コメ減反から増産奨励への方針転換)などもあって37%前後まで持ち直したものの、依然低空飛行が続いています。支持率30%台は政権運営に黄信号が灯る水準と言われ、選挙結果によっては首相交代や政策の停滞も現実味を帯びます。
実際、昨年10月には石破首相が解散・総選挙に打って出ましたが、その衆議院選挙で与党自民党・公明党は過半数割れという歴史的敗北を喫しました。この「与党大敗」の報が伝わった直後、マーケットでは政治的不透明感の高まりを嫌気して株価が一時下落し、投資家の不安心理が垣間見えました。しかし興味深いことに、その後は急激な円安(円の対ドル価値低下)が進行したため輸出株中心に買い戻しが入り、日経平均株価は結果的に選挙前より上昇して引けるという現象も起きています。この背景には、与党敗北による政権不安定化で将来的な経済政策の不確実性が増し、海外投資家が日本円資産の比重を下げる動きを見せたことがあると考えられます(円売り・株安の組み合わせ)。同時に、大きな政治イベントが通過した安堵感からの自律反発や、「政権テコ入れの経済対策期待」が浮上した側面もあるでしょう。
ただし、専門家は「この種のラリー(選挙後の株高)は長続きしない」とも指摘しています。実際、与党過半数割れという結果は、その後の国会運営を不安定化させ、政策停滞リスクを高めました。政治の不確実性が増すと、政府の経済対策が遅れたり将来の政策見通しが立たなくなるため、企業や消費者のマインドが萎縮する恐れがあります。夏場まで政局不安が続けば、日本経済の回復シナリオにも影が差しかねません。マーケットも、政治情勢を睨みつつ神経質な展開が予想されます。例えば選挙直前の世論調査で与野党伯仲が伝われば、政策の先行き不透明感から株価が上値の重い展開になるかもしれません。逆に与党が安定多数を維持できれば安心感からリリーフ・ラリー(安堵による買戻し)が起こる余地もあります。しかしいずれにせよ、「政治リスク」は今や日本市場にとって無視できないファクターとなっており、投資判断の際には織り込んでおく必要があります。
投資家が取るべき総合的なリスク回避策
以上のように、日本の交渉力不足や政治不安は様々な経路でマーケットに影響を及ぼし得ます。では、皆さんが自身の資産を守るためにどのような策を講じるべきか、具体的に提案します。
① 資産のグローバル分散
日本国内の現物株やETFだけでなく、海外の株式・債券・コモディティにも目を向けましょう。投資先を日本に偏らせず、米国や欧州、新興国市場のETFを組み入れることで、一国の政治リスクによる影響を和らげることができます。米国の関税政策や日本政局による「カントリーリスク」が表面化しても、他地域の資産がクッションとなり得ます。NISA口座であっても、日本株だけでなく海外ETFや外貨建てMMF等を組み合わせることで、非課税メリットを享受しつつ分散効果を高めることが可能です。
② 安全資産・ヘッジの活用
不透明感が高まる局面では、一部ポートフォリオを現金や安全資産で保有することも検討してください。例えば、日本国債や米国債、金(GOLD)などは有事の「逃避先」として機能しやすい資産です。実際、世界的なリスクオフでは金価格が上昇しやすく、債券も買われ金利低下(価格上昇)する傾向があります。防衛や貿易摩擦のリスクが高まった場合に備え、金ETFや債券型ファンドへの投資でヘッジをかけておくのも有効です。また、ボラティリティ・インデックス(VIX)連動ETFなどで短期的な下落リスクに備える方法もあります(ただし専門的な取引のため注意が必要)。
③ 為替リスクへの対応
為替相場の変動も無視できません。政治・外交リスクによって円が乱高下する可能性があるため、外貨資産の為替ヘッジを検討しましょう。例えば、海外株式を購入する際に為替ヘッジありの投信を利用したり、FXで適度にポジションをとって円高・円安双方に備える戦略があります。前述の通り、日本発のリスクで円安が進む場合もあれば、世界的リスクオフで円高に振れるシナリオもあります。「円だけ」「ドルだけ」に偏らず、複数通貨に資産を振り分けることが安定への近道です。たとえば、手元資金の一部を外貨預金や外貨MMFで持つ、あるいは金(GOLD)は通貨価値下落へのヘッジにもなります。
④ セクター配分の見直し
政治イベントの影響を受けやすい業種・銘柄への偏重にも注意が必要です。直近のテーマで言えば、自動車や鉄鋼など米国関税の直撃を受けかねない輸出産業株は慎重に見極めるべきでしょう。追加関税が発動されれば、自動車セクターは業績悪化懸念から下落圧力が高まりそうです。一方、防衛関連やサイバーセキュリティ関連は政府の安全保障強化の後押しで中長期的な追い風が期待できます。実際、防衛3社(IHI、三菱重工、川崎重工)は今年大幅な株価上昇を遂げています。このように、政治の流れに沿って恩恵を受けるセクターと逆風を受けるセクターが明確になりやすい局面では、機動的なセクター比率の調整が有効です。また、国内需要中心で政治リスクの影響が相対的に小さいディフェンシブ銘柄(食品、インフラ、通信など)への投資比率を高めて安定を図る手もあります。
⑤ 情報収集と機動的対応
最後になりますが、政治・外交動向の情報収集を怠らないようにしましょう。投資判断においてタイムリーな情報は命綱です。特に重要イベント前後ではマーケットの値動きが激しくなるため、普段からニュースや専門家レポートに目を通しシナリオをシミュレーションしておくことが大切です。幸い、本記事の「参考資料」に挙げたように信頼できる情報源は数多くあります。公式発表やニュースソースを確認しつつ、「もし〇〇が起きたら自分の資産にどう影響するか?」と日頃から考えておくことで、有事の際にも冷静に対応できるでしょう。また、必要と判断した場合には一時的に現金ポジションを増やす勇気も重要です。リスクから完全に逃れることは難しくとも、備えを万全にすることでその衝撃を緩和することは可能です。
おわりに
日本の政治的なディール下手(交渉力不足)や外交の遅れは、一国の問題に留まらず私たちの資産にも影響を与えかねない時代です。しかし、悲観しすぎる必要はありません。適切な知識と備えがあれば、リスクをコントロールしながらチャンスを掴むこともできます。重要なのは、「リスク要因を直視し、手を打つこと」です。私はこれまでマーケットを見続けてきましたが、最後に勝つのは常に冷静に準備をしていた投資家です。どうか皆さんも本記事を参考に、来たる局面に備えてポートフォリオを点検してみてください。参考にしてください。