三菱UFJ銀行が、現金専用だった自動販売機やコイン機器を大規模にキャッシュレス対応するというニュースが話題になりました。2025年から、自社のクレジットカードのタッチ決済ネットワークを活用し、現在の約18万台から将来的に100万台もの自販機等へ導入を目指すとのことです。これにより、缶ジュース1本やゲームセンターの小さな支払いでもカード一枚でスムーズに買える時代が来ようとしています。
政府統計によれば、2024年の日本におけるキャッシュレス決済比率は金額ベースで42.8%まで上昇しました(政府目標の「4割程度」を前倒しで達成)。しかし、その一方で1,000円以下の少額決済では約49%が現金払いに依然として頼っており、クレジットカード利用は14%にとどまります。少額取引での現金の根強さが、キャッシュレス普及のボトルネック(障害)だと言われてきました。三菱UFJの取り組みは、まさにそのボトルネックを解消しようという試みです。自販機で小銭を探す手間が省ければ利用者にとって便利になるだけでなく、海外からの観光客にとっても「日本の自販機は硬貨がないと使えない」という不便が解消され、普段使いのクレジットカードで気軽に買い物ができるようになります。
また100円玉など硬貨の流通量自体も減少傾向にあり、財務省は2025年度の100円硬貨の製造枚数を前年度比33%減の1億枚とする計画です。こうした背景から、日本でも少額決済のキャッシュレス化が強力に進められているのです。
では、なぜ少額の支払いではここまで現金が使われ続けているのでしょうか?消費者にとってキャッシュレス決済は確かに便利です。スマホやカード一枚あれば財布がなくても買い物でき、「小銭のお釣り」が出ず衛生的というメリットもあります。事実、コロナ禍を経て「現金の受け渡しを減らしたい」「会計を非接触ですばやく済ませたい」といったニーズも高まり、キャッシュレス利用は加速しました。一方で、現金払いにはない“見えにくいコスト”がキャッシュレス決済には存在することも事実です。それが店舗側が負担する決済手数料です。
・少額決済で現金が好まれる理由 – 手数料の壁 ・中小店舗にとってのキャッシュレス – 手数料負担という悩み ・「手数料問題を解決するカギは? – 新たな決済インフラと技術 ・デジタル化するお金と「物としての価値」を持つ資産 ・キャッシュレス化と決済インフラから得られる投資の視点 ・書籍紹介
少額決済で現金が好まれる理由 – 手数料の壁
コンビニでコーヒー1杯、駄菓子屋でお菓子ひとつといった数百円程度の支払いで、「こんな少額でもカード使えるのかな…」と気後れした経験はないでしょうか。実際には使えるお店も増えていますが、こうした小さな支払いで現金が選ばれがちな背景には、店舗側の手数料負担があります。クレジットカード払いの場合、店舗(加盟店)は売上代金の一部を手数料としてカード会社等に支払わねばなりません。一般的にクレジットカード決済の手数料率は2~3%程度とされ、たとえば500円の支払いなら店は10~15円前後を手数料で差し引かれる計算です。売上の数%というと少なく思えるかもしれませんが、利益率の低い商売ではこの負担は決して小さくありません。特に個人商店や飲食店など中小規模の店舗にとって、数%の手数料は経営を圧迫しかねない大きなコストです。
近年普及が進んだスマホのQRコード決済(PayPayや楽天ペイなど)も、消費者から見ると手軽で現金いらずですが、やはり店舗側には手数料が発生します。主要なQRコード決済サービスではおおむね1~2%台後半の手数料が設定されており、たとえばPayPayの場合、通常プランで2.80%、有料の加盟店プランに加入すれば1.98%に抑えられる水準です(※税別、2025年時点)。これら手数料率はクレジットカードよりは低めとはいえ、ゼロではないため、やはり少額決済が積み重なる業態では馬鹿にできません。
店舗側としては「キャッシュレスに対応しなければお客様の利便性を損ねる」という思いと、「対応すると手数料負担が増える」という板挟みの状況です。その結果、「少額の商品は現金のみ」と割り切る店もまだ少なくありません。たとえば個人経営の飲食店では、「ランチタイムは安価なので現金払いでお願いします」といった但し書きを見かけることもありますよね。
こうした中、業界最大手のスマホ決済PayPayは普及初期に大胆な戦略を採りました。加盟店手数料を最初の3年間は無料にするキャンペーンです。この施策によって「手数料負担がないなら導入してみよう」と考えるお店が一気に増え、結果として新たに約344万箇所もの店舗・事業者がPayPayを導入しました。手数料がゼロなら店側のリスクはありませんから、爆発的に普及したわけです。現在はキャンペーンが終了し1~2%台の手数料がかかるようになりましたが、それでも一度キャッシュレス決済の便利さを知ったお店は「もうやめられない」のが実情です。現に、ある事業者向け調査では2021年11月時点で中小企業の80%が何らかのキャッシュレス決済手段を導入済みだったというデータもあります。中でも「小売業で85%」「飲食業で82%」といった高い普及率が報告されており、キャッシュレス対応そのものは相当広がっていることが分かります。
中小店舗にとってのキャッシュレス – 手数料負担という悩み
では、中小規模の店舗は実際どのように感じているのでしょうか。二輪車販売店の事例ですが、キャッシュレス決済端末を導入した店主はその効果とともに次のような本音を語っています。
要するに、カード払いのお客さんだけ値段を上乗せするわけにもいかないので、店側が手数料分を泣き寝入りする形になりがちだという悩みです。実際、現金で払うお客様にはポイント代わりに値引きサービスをしつつ、キャッシュレス客には値引き無し(実質的に同じ商品でもキャッシュレス客の方が店に入るお金が少ない)という対応をしている小規模店もあるようです。
別の店舗では「キャッシュレス決済の需要は年々高まっており、お客様から『カード使えますか?』と聞かれることが多いので、辞めたくてももう辞められない」という声もあります。一度キャッシュレス決済の便利さに慣れた顧客は、使えない店を敬遠する傾向すらあります。特に若い世代ほど「基本キャッシュレス派」で現金をほとんど持ち歩かない人も増えていますから、中小のお店も対応しないわけにはいきません。ただ、その便利さの裏で店側が数%のコストを負担している点は、消費者からは見えにくいものです。
加盟店手数料以外にも、端末の導入費用や月額利用料(最近はタブレット型端末を無料貸与するケースもあります)、売上金の入金サイクル(即日ではなく翌日以降になる)など、店舗にとってキャッシュレス対応には様々なハードルがあります。それでもなお導入が進むのは、やはり「お客様のニーズに応えたい」「売上機会を逃したくない」という思いからでしょう。ポイント還元やキャッシュレスならではのサービスも増え、消費者側が「キャッシュレスで払いたい」と強く希望する時代になっています。国もまた「世界最高水準のキャッシュレス比率80%を目指す」と掲げ、中小店舗への支援策や環境整備を進めています。こうした流れの中で、店舗側の手数料負担という課題をどう解決していくかが今、大きなテーマとなっているのです。
手数料問題を解決するカギは? – 新たな決済インフラと技術
キャッシュレス決済の手数料負担を軽減するために、様々な工夫や新技術が模索されています。冒頭で紹介した三菱UFJの自販機キャッシュレス化の取り組みも、その一つです。三菱UFJ銀行は、自社グループの決済ネットワークを使ってカード会社~加盟店間の中間プロセスを簡素化し、店舗側手数料コストを最大5分の1に抑えられる仕組みを構築しました。通常、カード決済ではカード会社、決済代行会社、ネットワークセンターなど複数の事業者が間に入りそれぞれ手数料がかかっていますが、三菱UFJのモデルでは加盟店の端末と銀行ネットワークを直接つなぐことで中抜きを実現しています。メガバンク自らがインフラを整備することで、「少額決済でもキャッシュレスにした方が安上がりだ」と店舗に感じてもらう狙いです。
さらに、ブロックチェーン技術を活用した新しい決済インフラにも期待が高まっています。その代表格が「ステーブルコイン」です。ステーブルコインとは、法定通貨(日本円や米ドル)や金のような資産の価値に連動するよう設計された価格が安定したデジタル通貨のことです。ビットコインなど従来の暗号資産(仮想通貨)は価格変動が激しく日常決済には不向きでしたが、それに対しステーブルコインは1コイン=1円や1ドルといった形で常にほぼ一定の価値を保つよう管理されています。そのため、日常的な支払い手段として実用性が高いと期待されているのです。
ステーブルコイン最大の利点の一つが、送金・決済コストの安さです。データのやり取りだけで価値移転が可能なブロックチェーン技術を使うことで、銀行など既存の決済網を介さず直接お金のやり取りができます。その結果、ほぼリアルタイムに低コストで送金できる特徴があります。たとえばクレジットカード決済では2~3%、国際送金では1回数千円(数十ドル)かかることも珍しくありませんが、ステーブルコインであれば送金手数料は数円~数十円程度に抑えられるケースもあります。仲介業者がいない分、圧倒的に安価に決済を完結できるわけです。特に、銀行口座を持たない人同士の送金や、国境を越えた送金では、従来は「バケツリレー」のように複数の銀行を経由するため時間も手数料も多くかかっていました。ステーブルコインを使えばこうした中継プロセスを省略でき、より速く安く送金が可能になるとされています。
現在、世界的に見てもステーブルコインの普及は目覚ましいものがあります。2025年にはステーブルコインの流通量(供給量)が全世界で2,000億ドル(約30兆円)を突破し、前年から30%増加したと報告されています。これは、ステーブルコインがグローバルな金融システムにおいて無視できない存在感を持ち始めていることを示しています。こうした流れを受け、日本でもステーブルコインの制度整備と実証実験が動き出しました。2023年には資金決済法が改正され、ステーブルコインが正式に「電子決済手段」として位置付けられています。
しかし改正からしばらくは国内で発行する企業がなく動きが静かでした。転機となったのが2025年8月です。ついに金融庁が日本初の円建てステーブルコイン発行を承認し、JPYC社という企業が第一号となりました。さらに同月には三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が海外のブロックチェーン企業やIT企業と提携し、ステーブルコイン事業化に向けた共同プロジェクトを開始すると発表しました。メガバンクが本腰を入れたことで国内外で注目を集め、次世代の決済インフラとしてステーブルコインが本格的に動き出した状況です。
もっとも、ステーブルコインはまだ一般の買い物で気軽に使える段階ではありません。法律上も発行主体に銀行や信託会社など一定の信用ある機関が求められるなど、安全性の確保が重視されています。ただ将来的には、たとえば企業間の支払い(BtoB)や国際送金、あるいは個人がスマホでステーブルコインをやり取りして買い物といったシーンも十分に考えられます。クレジットカード網や既存の決済手段ではコストが高かった領域に、新たな低コスト決済の選択肢が生まれる可能性があるのです。
デジタル化するお金と「物としての価値」を持つ資産
キャッシュレス化・デジタル化が進む社会では、お金はますます「目に見えないデータ」になっていきます。財布に入れる現金が減り、銀行口座やスマホアプリ上の数字が私たちの所持金になるわけです。一方で、そんな時代だからこそ改めて注目されているのが「モノとしての価値」を持つ資産です。その代表例が金(GOLD)でしょう。中でも地金型金貨(純度の高い投資用の金貨)は、資産保全の手段として根強い人気があります。
金貨は古来より「貨幣」として使われてきた歴史を持ちますが、現代においてもその価値は健在です。金貨1枚が持つ重みはどの国でも通用する普遍的な価値であり、極端なインフレや紙幣の信用が揺らぐ局面でもその価値を失わない「最後の砦」として機能すると言われます。実際、金貨はインフレから資産を守りうる存在であり、腐食したり劣化したりしないため世代を超えて受け継ぐことも可能な「確かな財産」です。デジタルな数字上の資産とは異なり、手で触れられる実物資産であるという安心感は大きいでしょう。
専門家も、「お金のデジタル化が進むほど、安全性の観点から金貨のように誰にでも価値が実感できる道具を取り入れることが重要になる」と指摘しています。現金そのものの流通量は減っていますが、日本では銀行預金を引き出して自宅で保管する「タンス預金」が依然根強いとも言われます。それは、データ上の数字だけでは不安で、実際に手元にある現物に価値を感じたい心理の表れかもしれません。金貨や金地金への投資も、その延長線上にあるでしょう。デジタルマネーが主流になっても、実物の資産を持つことの意義は決して薄れないのです。
もちろん、金貨などの実物資産には盗難リスクや保管コストといった注意点もあります。しかし、「いざというとき世界中どこでも価値を認められる」「インフレや紙幣価値下落への備えになる」という点で、少しずつ資産の一部を金で持っておく方も増えています。キャッシュレス化が進む社会だからこそ、デジタルとアナログのバランスを考え、自分の資産ポートフォリオを見直すことも大切かもしれません。
キャッシュレス化と決済インフラから得られる投資の視点
ここまで、キャッシュレス決済の現状と課題、そして新技術や資産の話まで幅広く見てきました。最後に、いくつかインサイト(示唆)を整理してみたいと思います。
まず一つ目は、「課題の裏にチャンスあり」という視点です。キャッシュレス化は便利さゆえに進む大きなトレンドですが、その裏側には「手数料負担」という課題がありました。この課題を解決しようと各企業が競って技術開発やサービス改良を行っています。たとえば先述の三菱UFJのように既存ネットワークを工夫して低コスト化を図る動きや、フィンテック企業が提供する安価な決済端末、そしてブロックチェーンを使ったステーブルコインなど、決済インフラのイノベーションが次々と生まれています。投資という観点では、まさにこうしたイノベーションを起こす企業や技術に注目するチャンスと言えるでしょう。手数料の壁を乗り越える仕組みを提供できる企業は、今後ますます多くの店舗や消費者から支持され成長が見込めます。
二つ目は、「長期的な流れを読む」という視点です。日本政府はキャッシュレス比率80%という高い目標を掲げています。また世界に目を向けると、韓国ではキャッシュレス決済比率が約99%にも達し、中国でも8割を超えるなど、アジアを中心に現金の出番が極端に少ない社会が現実のものとなりつつあります。一方で日本はようやく40%台に乗せた段階で、欧米諸国も国によってはまだそれほど高くない例もあります。つまり国や地域によってキャッシュレス化の進展度合いは様々ですが、長期的に見れば「確実にキャッシュレス化は進む方向」であることは間違いないでしょう。投資家としては、この大きな流れを踏まえた上で、どの段階でどの業界にチャンスが生まれるかを考えることができます。たとえば、日本がこれから80%に向けて伸びていく過程では、小売・サービス業界でキャッシュレス関連の需要が増えるでしょうし、それを支える決済サービス企業にも追い風です。逆に、現金中心のビジネスモデルに固執する企業は徐々に立ち行かなくなるかもしれません。この潮目の変化を先読みして、成長が期待できる分野に資金を投じるというのも一つの戦略です。
三つ目の視点は、「リスク管理と分散」です。キャッシュレスやデジタルマネーが広がるほど、一見便利になりますが、新たなリスクも出てきます。システム障害が起これば決済が止まってしまう、サイバー攻撃でデータが狙われる、といったデジタル社会特有のリスクです。投資においても、特定のデジタル資産や電子マネーだけに頼るのではなく、資産を分散させておく重要性が増すでしょう。先ほど述べた金などの実物資産をポートフォリオに加えるのもその一例です。たとえデジタル決済が一時使えなくなっても、手元の実物資産や現金があれば当面しのげるかもしれません。「デジタルとアナログのハイブリッド」が安心感につながる面もあるのです。
最後に、「身近なところから着実に」という点も強調したいと思います。キャッシュレス化や新しい決済技術というと、なんだか遠い世界の話に感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、皆さんの日常生活やビジネスそのものに直結しています。たとえば小さなお店を経営している方なら、キャッシュレス対応をどうするか、手数料と売上増をどうバランスさせるかは経営課題でしょう。消費者としても、自分の支払い手段やポイントの活用法はお金の管理の一部です。投資初心者の方であっても、まずは自分自身のキャッシュレスとの付き合い方を見直してみると、新たな発見があるかもしれません。「なぜ自分は現金派なのか?キャッシュレス派なのか?その背景にはどんな価値観やメリット・デメリットがあるのか?」といった具合です。そうした身近な気づきを大切にしつつ、ニュースや統計データにもアンテナを張ってみてください。キャッシュレス化の進展ひとつとっても、日本と海外でこんなに状況が違うんだ、だからこの企業はこんなサービスを打ち出しているんだ…という風に、世の中の動きと自分の生活がつながって見えてくるはずです。それこそが、初心者から一歩進んで投資家マインドを育てる良い訓練にもなるでしょう。
キャッシュレス決済のインフラ整備と投資という切り口で考えると、普段何気なく使っている支払い手段も奥が深く感じられてきます。便利さの影には店舗側の努力があること、新技術の登場によって課題解決の道が開けつつあること、そしてデジタル化が進んでも物としての価値を持つ資産の重要性が見直されていること。こうしたポイントを押さえつつ、自分なりに「これからお金の世界はどう変わるのか?」と想像を巡らせてみてください。その想像こそが、新たな投資アイデアやビジネスのヒントにつながっていくに違いありません。キャッシュレス化という時代の流れを味方につけ、ぜひ皆さんの資産形成や経営に役立てていただければと思います。