・はじめに:AI活用の新段階、「効率化」から「超加速」へ ・“AI+1人”でユニコーン企業?スーパーカンパニー出現の可能性 ・士業もホワイトカラーも再定義が必要に:AI時代の専門家の役割 ・投資家も「観察」から「活用」へ:AIで投資環境を整える ・「AIが決める」時代目前?コンサルに頼らない意思決定 ・おわりに:AIと共に飛躍する準備を ・書籍紹介
はじめに:AI活用の新段階、「効率化」から「超加速」へ
これまで私たちは「AIを使って業務効率を良くしよう」といった視点で技術を捉えてきました。確かにチャットボットやRPAなどを導入し、事務作業の自動化や情報検索の高速化といった恩恵を受けてきた企業は多いでしょう。しかし2024年から2025年にかけて、そのAI活用の常識が大きく転換しつつあります。今や「AIと共に、人の何百倍ものアウトプットを出す」というスタイルが最適解として台頭し始めたのです。言い換えれば、一人ひとりの“生産性”が桁違いにブーストされるフェーズ、「超加速経営」の時代が見えてきました。
たとえば、ソフトバンクグループの孫正義氏は2025年夏の講演で「自社グループ内で10億のAIエージェントをつくる」と宣言しています。AIエージェントとは、大規模言語モデル(Generative AIの一種)を頭脳に、ユーザーの指示に従って自ら計画を立て、カレンダーやメールなど必要なツールを操作して仕事を完了まで進めてくれる自律型のソフトウェアです。チャットで質問回答する従来型AIから進化した、「自律的に動く同僚」のような存在と考えると分かりやすいでしょう。
孫氏はこのAIエージェントを「24時間365日休まず働く疲れ知らずの労働力」と位置づけました。また米NVIDIA(エヌビディア)のジェンスン・フアンCEOも「社員が5万人、そして1億体のAIがあらゆる部署で働く未来」を描いており、AIも人間も垣根なく“同僚”として働く世界観に言及しています。もはやAIは単なる業務補助ではなく、人間と並んで仕事を担うパートナーとなりつつあるのです。
こうした変化により、企業経営の在り方も見直され始めました。人手不足が深刻化する業界では特に、AIをどう戦力化するかが経営トップの重要テーマになっています。単に事務作業を効率化するだけでなく、AIを組織に深く埋め込んで「少数精鋭+AI」で最大成果を狙う発想が求められているのです。AIが得意とするのは、大量データ処理や定型業務の高速実行だけではありません。複数のAIエージェントに役割分担させれば、人間では到底追いつかないスピードと品質で仕事を進めることも可能です。一人の人間が何十人・何百人分の働きをする。そんな驚きの生産性向上が現実のものとなりつつあります。
“AI+1人”でユニコーン企業?スーパーカンパニー出現の可能性
AIと人との協働による超・少数精鋭の会社は、本当に実現するのでしょうか。実はすでに著名なAI企業経営者が具体的な予測をしています。米Anthropic(アンソロピック)の創業者であるダリオ・アモデイCEOは2025年5月、あるイベントで「社員はたった1人で企業価値10億ドル(約1,500億円)に達する会社が、2026年には登場する」と大胆に語りました。企業価値10億ドル以上の未上場企業は「ユニコーン企業」と呼ばれます。プログラミングや事務作業、マーケティングまで器用にこなすAIの力をテコにすれば、極端な話「社長1人+AIチーム」という構成でもユニコーン級の事業規模に到達できる。そんな未来図です。実際、2012年にインスタグラムが約10億ドルで買収された際、その会社はわずか13人のチームでした。当時はコンテンツ監視業務など人手が必要でしたが、今ならAIで代替できる部分が多く、もっと少人数でも同じ価値を生み出せるかもしれません。
このような“スーパーカンパニー”の出現は、従来の常識を覆します。大企業はもちろん、新興スタートアップですら「大きな事業を回すにはそれ相応の人材が必要」と考えられてきました。しかしAI時代にはその前提が崩れつつあります。高度なAIツールの利用コストは急激に低下しており、高性能AIが安価に誰でも使える時代です。過去1年半でGPT-3.5クラスのAIを動かすコストが280分の1まで下がったというデータもあります。つまり、かつては大資本の企業しか持てなかった「頭脳労働の分身」を、今や個人や小規模チームでも多数使役できるのです。
こうなると社員を何十人も雇って人海戦術で挑む経営は、コストパフォーマンスの面で不利になりかねません。AI導入にかかる費用はクラウドサービスの利用料程度ですが、人件費や福利厚生費は桁違いです。もちろん、人間にしかできない創造や共感の力は依然として貴重です。しかし、それを発揮する人間の側もAIという「分身ロボット軍団」を従えて戦うようになるでしょう。一人の経営者が多数のAIエージェントを操り、開発・営業・経理・カスタマーサポートまでこなす会社…。SFのようですが、2026年にはそうした超効率的な“小さな巨人企業”が続々と登場する可能性は十分にあります。
士業もホワイトカラーも再定義が必要に:AI時代の専門家の役割
AIによる業務革命の波は、経営層やエンジニアだけでなく士業(弁護士、税理士など専門資格職)やホワイトカラーにも押し寄せています。これまで「AIが仕事を奪う」と言われ続けてきた分野ですが、現状を見ると「AIに乗り遅れて食べていけなくなる」ことへの危機感がより現実的です。
たとえば税理士や行政書士の先生方を思い浮かべてください。決まったフォーマットの書類を作成して提出する、こうした業務はAIが最も得意とするところです。実際ここ10年、「そのうちAIが士業の仕事を奪う」と言われてきましたが、今後遅かれ早かれ一部の定型業務はAIに代替されるのは避けられないでしょう。しかし重要なのはその先です。専門家の仕事すべてが消えるわけではないものの、決まりきった作業しかできない士業は淘汰されるとも指摘されています。知識を引き出して文章を作成するといった作業そのものの価値がAIによって大きく目減りする時代、では専門家は何を提供すれば生き残れるのでしょうか?
鍵はAIにできない付加価値を生み出すことにあります。とあるコラムでは、士業が環境変化についていけない理由として次のような点が挙げられていました。一つは、国家資格による独占業務に安住し、自らサービス革新を図らない傾向。もう一つは、自分の専門以外(たとえば経営戦略や他の法律領域)には疎く、ビジネス全体を俯瞰する視点が持ちづらいこと。また法律のように答えが明確な世界に慣れているため、不確実性の高い課題に柔軟に取り組む経験が少ないこと。これらの結果、単なる業務効率化だけでは他者との差別化ができず、ビジネスモデルそのものを再構築するくらいの発想転換が求められるというのです。
厳しい指摘ですが、まさにAI時代に専門家として生き残るヒントが示唆されています。AIの進化で士業すべてが不要になるわけではありません。ただ、契約書作成や申告書類の作成など「ひな型に当てはめる仕事」しかしてこなかった人は厳しい局面を迎えるでしょう。一方で、AIをフル活用しつつ人間ならではの創造力やコンサルティング力で勝負できる専門家には、新たな需要が生まれるはずです。たとえば税理士であれば、AIが作った試算や分析を踏まえて経営者に最適な節税策を提案するアドバイザーになる、といった具合です。AIをライバルではなく強力な相棒とみなし、自らのサービスを再定義できるか。士業にとっても“生き残り策”のアップデートが必要になっています。
投資家も「観察」から「活用」へ:AIで投資環境を整える
ここまで主に企業の経営や労働の話をしてきましたが、この流れは私たち投資家の世界にも当てはまります。これまではAIの発展を「すごい技術だな」と傍観している段階だったかもしれません。しかし、これからは投資家自身がAIを積極的に活用して、自らの投資環境を効率化していく段階に移行すべきです。
幸いなことに、投資分野で使えるAIツールも次々と登場しています。たとえば市場データの分析や個別銘柄のスクリーニングをAIが自動で行ってくれるサービスがあります。実際、AIを活用することで投資の情報収集や分析の効率は飛躍的に向上することが確認されています。過去には数日かけていた決算書の読み込みも、AIに要点を要約させれば数分です。数百社の財務指標を比較検討するのも、人手ではとても大変ですが、AIならあっという間に「割安な銘柄リスト」を提案してくれるでしょう。事実、とあるAI搭載の投資支援ツールでは世界72,000銘柄超のデータをカバーし、AIが割安株や業績好調な銘柄を自動抽出してくれる機能もあるそうです。
プロの投資家や機関投資家の間でも、AI活用は広がりを見せています。Sovereign Wealth Fund(政府系ファンド)や中央銀行の約3分の1が既に投資プロセスでAIを活用しているとの調査もあります(※参考:インベスコ社「グローバルソブリン資産運用調査2023」)。投資判断を支える分析やリサーチをAIに任せ、人間は戦略の最終判断に集中する、そんな役割分担が進んでいるのです。私たち個人投資家も、「AIに詳しい専門家に相談しなくても、自分でAIツールを駆使して投資環境を整える」という発想に切り替えてみましょう。具体的には、AIにニュースや決算情報を要約させて銘柄研究の手間を省いたり、ポートフォリオ分析AIに資産配分の最適解を提案してもらったりするイメージです。もはやAIは一部のITマニアだけのものではありません。標準装備としてAIを取り入れ、その効果を最大化できるか否かが、投資の成果を大きく左右する時代なのです。
「AIが決める」時代目前?コンサルに頼らない意思決定
投資の世界だけでなく、経営判断や戦略立案の場面でもAIが頼れるパートナーになりつつあります。従来、経営コンサルタントに依頼して数週間~数か月かけて行っていた市場調査やシミュレーションも、AIを使えば短時間で結果を出せるケースが増えています。実際、コンサルティング業務の中でもデータ収集・整理・解析、仮説の立案といった部分はAIが代替できると指摘されています。AIは膨大な情報をかき集め、一瞬でリスト化したり、パターンを見出したりするのが得意です。人間のチームでは何日もかかる市場データ分析も、AIなら昼夜問わず一気に処理してくれるでしょう。
もちろん、人間の洞察力や創造力すべてをAIが肩代わりできるわけではありません。「組織の文化をどう変えるか」「チームをどう鼓舞するか」といった課題には、人間同士の信頼関係や直感的な判断が必要です。しかし、定量分析やロジック構築といった領域はAIに任せ、人間はより戦略的でクリエイティブな意思決定に注力するのが理想的な形になっていくでしょう。たとえば新規事業の立ち上げで市場性を調べたい場合も、わざわざ高額なコンサルタントに依頼せずとも、AIアナリストに市場レポートを作成させることが可能になるかもしれません。AIが「こうすれば利益が出そうです」「ここにリスクがあります」と提案し、人間の経営者や投資家が最後の判断を下す。そんな意思決定プロセスの変革がすぐそこまで来ています。
実際、生成AIの高度化により「AIに何を相談し、何を人間が判断するか」という切り分けが始まっています。前述のように、AIは非常に優れた分析者であり提案者となり得ます。これを受けて、企業ではChief AI Officer(CAIO)を置いてAI戦略を統括したり、社員全体のAIリテラシー教育に力を入れたりする動きも出てきました。社内の知恵袋としてAIを使いこなす人材が増えれば増えるほど、従来はコンサルに外注していた課題解決も内製化できるでしょう。コンサルタントに大金を払わなくても、自社のAIチームと現場の人間の知恵で十分やっていける。そんな未来が現実味を帯びています。
おわりに:AIと共に飛躍する準備を
AIと共創する超加速経営の潮流は、私たちに危機感とチャンスの両方を突きつけています。危機感とは、「AIを使いこなせない人や企業は競争から脱落するかもしれない」という現実です。実際、「AIが仕事を奪う」のではなく「AIを扱えない人が淘汰される」局面が迫っているとも言われます。Excelが使えない人がかつて肩身の狭い思いをしたように、AIアレルギーのままではビジネスの中心から遠ざかってしまうでしょう。
しかし同時に、AIは人間の可能性を何倍にも広げるツールでもあります。退屈な作業を肩代わりさせて生まれた時間で、新しいアイデアを練ったり、大切なクライアントと向き合ったりできるのです。
要は使い方次第。環境変化のスピードに目を背けず、むしろ先んじてAIを取り入れることで、個人も企業もこれまで以上の飛躍が期待できます。「1人で何百人分もの成果を出す」なんて夢物語だと思っていた世界が、もうすぐ私たちの現実となろうとしています。AI成長のスピードにに食らいつくくらい、AIリテラシーの強化をしていきましょう!