最近、アメリカで「ブルーカラービリオネア」という現象が話題になっています。あるニューヨークの弁護士が自宅の高級オーディオを修理に来た技術者に驚かされました。修理技師はポルシェで現れ、わずかな作業で数千ドルもの請求書を置いていったのです。この弁護士自身はウォール街で腕を振るう高収入のホワイトカラー(オフィス労働者)でした。しかし近年、時間のかかる法律リサーチ業務はAI(人工知能)に任せるようになり、短時間で結果が出るために顧客に請求できる手数料が下がってしまったと言います。彼は苦笑しながら「ハンプトンに別荘を構えるオーディオ修理技師の方が、自分よりいい暮らしをしている」と漏らしました。従来、知識労働であるホワイトカラーは高学歴・高収入の代名詞でしたが、その“常識”が今大きく揺らいでいます。
一方で、工事現場や整備士といったブルーカラー(現場で体を動かし技能を生かす職人的労働者)の存在価値が見直されています。たとえば「配管工は今や医者よりも収入が高い」と語るのは、とある空調整備技師です。実際、前述記事の筆者の自宅で水道管の水漏れ修理を依頼したところ、2時間程度の作業で800ドル(約12万円)を請求されたということです。専門知識のない依頼主は提示された金額を払うしかなく、これが今の相場だといいます。AIには代替できない熟練の技能や経験を持つ配管工・自動車整備士などへの需要は高まる一方です。実際、米国では大学ではなく職業訓練校へ進学する若者が増えており、あるテキサスの技能訓練校では入学者が過去1年で20%増加したとも伝えられています。高い学費を払って名門大学を出たのに職にあぶれる若者がいる一方で、技能を持つブルーカラーは引く手あまた――そんな状況が現実に起きているのです。
ホワイトカラーは本当に淘汰されるのか?
この「ブルーカラービリオネア」現象は、象徴的なデータにも表れています。米国労働省の統計によれば、ブルーカラー職種のうちエレベーターやエスカレーターの設置・修理工の年間所得中央値は10万6,580ドル(約1,600万円)にも達します。必要な学歴は高卒が一般的で、大学教育を受けていない人でも高度な技能さえ身につければ高収入を得られる時代になりつつあります。
一方で「アメリカで大金持ちになれるのは知識階級(ホワイトカラー)だ」というこれまでの常識は崩れ始めています。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏やフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏のような一握りの天才ホワイトカラーは確かに巨万の富を築きますが、平凡なホワイトカラーがミリオネア(百万長者)になるのですら至難の業だと指摘されています。つまり、「高学歴だから安泰」「デスクワークだから高給」という時代ではなくなってきているのです。
背景にある大きな要因がAIの台頭です。実務の現場では既に、AIがホワイトカラーの仕事の一部を肩代わりし始めています。冒頭の弁護士の例では、AIが法律リサーチを瞬時に行うために彼の人間としての稼ぐ機会が減ったのでした。米フォード社CEOのジム・ファーリー氏は「AIは米国のホワイトカラー労働者の半分を置き換えることになるだろう」とまで語り、逆にAIにはできない技能を持つ技術者を「エッセンシャルワーカー(不可欠な労働者)」と位置付けています。
実際、2023年時点で「AIに仕事を奪われない職業を選びたい」と考える若者も増えており、大学より職業訓練校を選ぶ人が目立ち始めています。四年制大学で経営学を専攻して今年卒業した学生が2,000社に応募しても採用がない一方、配管工や電気技師といった職人の世界には人手がどんどん流れ込んでいます。あるコンピューターサイエンス(情報工学)専攻の卒業生は「コードを書く仕事は今やAIが担っており、自分には全然仕事がない」と嘆くほどです。このように、中途半端な高学歴ホワイトカラーほどAIの波に飲み込まれやすい現実が浮かび上がっています。
もっとも、このブルーカラー優位の状況が永続するかは未知数です。AIがさらなる進化を遂げれば、これまで「人間にしかできない」とされた技術ですら代替される可能性もあります。一時的な現象に過ぎないのか、それとも人間の手仕事には普遍的な価値が宿るのか――答えはまだ出ていません。しかし少なくとも現時点では、「AIに置き換えられにくい仕事」に従事する人々が相対的な強みを持ちつつあるのは確かです。
AIを「武器」にする者だけが生き残る時代
では、ホワイトカラーに未来はないのかというと、決してそんなことはありません。鍵を握るのはAIを使いこなせるかどうかです。AI時代においては、AIを単なる「業務効率化の道具」ではなく「成果を爆発的に高める武器」として活用できる人こそが新たなエリートになり得ます。
たとえば最新のAIは、人間が1週間かけるようなプログラミング作業をわずか7時間で完了させてしまったとの報告があります。一度指示を与えればAI自らがタスクを計画・実行し、数百万行にも及ぶコードの整理を黙々とやり遂げたというのです。人間では到底一昼夜で処理できないボリュームの仕事を、AIは休みなく片付けてしまう。そんな「24時間働く無償の労働者」が現実に登場した今、個人の生産性の差はこれまでになく大きく開くでしょう。
こうした時代では、AIを使えない人は残念ながら厳しい立場に追い込まれます。かつて職場でパソコンやメールを使えない人が「戦力外」扱いされたのと同じように、今後はAIを活用できない人が仕事についていけなくなる可能性が高いのです。事実、ある企業グループでは幹部社員に「AIを活用しないと淘汰されてしまいますよ」と危機感を共有したケースもあります。「自分の業界には関係ない」「リスクがあるから使わない」とAI導入を尻込みしていたら、やがてライバルに大差をつけられてしまうでしょう。
逆に、新しいAI技術を使い倒して超高効率の成果を出せる人は、これまでの何倍もの仕事をこなし、周囲から圧倒的な信頼と評価を得るはずです。実際、AIを駆使する若手の部下が、AIに疎い上司よりも高い生産性を発揮する時代がすでに来ています。40代・50代のミドル世代でも、「昔のやり方」に安住する人と自らリスキル(学び直し)してAIを使いこなす人とで、将来のキャリアには大きな差がつくでしょう。もはや「AIなんて自分には関係ない」という言い訳は許されない時代なのです。
投資家が見るべき視点:変化をチャンスに、資産を守る策を
AIの登場による社会構造の変化は、私たち個人の働き方だけでなく経済全体の流れも変えつつあります。この激動の時代において、投資家として注目すべきポイントを整理してみましょう。
⚫︎ AIを武器にする企業や人材に注目
まず、AIを活用して生産性を飛躍的に高めている企業は今後の成長が期待できます。業務に生成AIを取り入れてコスト削減やサービス向上を実現している企業は、競合に対して優位に立つでしょう。投資判断でも、「AIをうまく使えているか」が企業を見る新しい物差しになりつつあります。逆に旧来の手法に固執し、AI活用に消極的な企業は市場から淘汰されていくリスクがあります。
⚫︎「人間にしかできない仕事」の価値に注目
AIが普及してもなお人間にしか担えない業務は残ります。とりわけ現場で体を動かす仕事や職人芸が求められる分野では、人手不足が深刻になるほど一人当たりの価値(収入)は高まります。建設・インフラ関連や高度な技能職に就く人材を確保・育成している企業、公的な職業訓練に着目している企業などは、今後も安定した需要が見込めるでしょう。実際、2026年までに米国の建設業界では約50万人の新規労働者が必要と見込まれており、この分野に関連するビジネスには追い風が吹いています。
⚫︎ 不確実な時代こそ「金(GOLD)」で資産防衛
急速な技術革新は大きな機会をもたらす一方で、経済の先行き不透明感も高めます。そこで見直されているのが金(GOLD)の存在です。古来より人々を魅了してきた金は「究極の資産保全の手段」とも呼ばれ、その価値は時代を超えて安定しています。AIがどれだけ進化しようと、有限で希少な実物資産である金の価値そのものが揺らぐことはありません。インフレや通貨価値の下落、金融市場の波乱に対する「保険」として、金への投資は資産ポートフォリオの一部に組み入れる価値があるでしょう。実際、景気変動時には安全資産として金需要が高まる傾向があり、その価格は長期的に右肩上がりで推移してきました。
最後に強調したいのは、変化を恐れず味方につける姿勢です。AIによって一部の仕事が淘汰されるのは避けられない流れですが、それは裏を返せば「新しいチャンスが生まれる」ということでもあります。私たちはAIという新たな力を脅威ではなく武器と捉えて、自分の生産性を高めるために活用すべきです。
ビジネスパーソンも投資家も、旧来の常識にとらわれず柔軟に学び続けることで、このAI時代を生き抜くことができるでしょう。そして不安定な世の中であっても、自分の大切な資産を守るための備え(たとえば金への分散投資など)も忘れずにいたいものです。技術革新で生まれる新しいエリートと、変わらず価値を持つ普遍的な資産。その両方を味方につけることこそ、これからの時代を豊かに生き抜くカギではないでしょうか。