2025/10/17

投資経験ゼロの先生が金融教育?教わる側が感じる違和感

最近、「金融教育の重要性」がよく叫ばれるようになりました。2022年から高校などで金融教育が必修化され、若い世代への知識浸透が図られています。それ自体は素晴らしいことですが、教壇に立つ先生が投資未経験だと聞くと、正直「えっ?」と違和感を覚えてしまいます。たとえるなら、自分では車の運転をしたことがない教習所の教官や、水に入ったことがない水泳コーチのようなものです。生徒の側からすれば、経験ゼロの先生に投資を教わるのは心もとない気がしてしまうのではないでしょうか。

実はこの現象、学校だけに限った話ではありません。たとえば金融機関や証券会社のセミナーでも、講師自身が個人的な投資経験に乏しいケースがあると聞きます。私自身、かつて参加したマネーセミナーで「私はリスクが嫌いなので預金オンリーです」と語る講師に出会い、「それで投資を語られても…」と首をかしげたことがあります。知識として教えることと、実際に自分で運用した経験から語ることには大きな差があるように感じます。



金融教育は必要。でも実践がなければ身につかない

誤解のないように言えば、金融リテラシー教育自体はとても大切です。お金の基礎知識を学ぶ機会がなかった世代が多い日本では、学校で体系的に教える意義は大いにあります。ただ、せっかく教室で習っても、その後に実際の投資に触れなければ知識はじきに消えてしまうのではないか──そんな不安も頭をよぎります。

誰しも学生時代に古文や微分積分を習いましたが、日常で使わなければ忘れてしまったという経験があるのではないでしょうか。金融教育も同じで、習っただけで終われば「机上の空論」になりかねません。一方で、これまでの日本ではその「学ぶ機会」自体が十分ではありませんでした。日経のアンケートでも「金融教育を受けたかった」という大人の声は多く、ある40代男性は「資産が預金に偏り分散投資ができなかった」と金融知識不足を悔やんでいます。また別の60代男性は「体系的に学んでいないのでネットの情報の真偽がわからない」と自己流の限界を痛感しています。知識がないままでは正しい情報を選ぶのも難しく、結局リスクを避けて貯蓄にとどまってしまう──これが従来の日本人の姿でした。

では、学校で金融教育を受けた若い世代はどうでしょうか。2022年の金融教育必修化以降、10代の約80%が授業でお金の勉強をしています。一方で社会人以上では「金融教育を受けたことがない」人が43%もおり、多くの人が独学やネット頼みで投資を学んできた実態があります。興味深いのは、投資をしている人のうち43%は投資を始める前に知識を身につけ、14%は投資開始後に学んだというデータです。多くの人は事前に勉強してから投資デビューしている様子がうかがえます。もっとも、「知識を得ても実践に移せないまま」の人も少なくありません。「学んだこと」と「行動に移すこと」の間には、いまだ大きな壁があるようです。ある30代女性は就職活動中の証券会社インターンで金融知識を学んだことがきっかけで、米国株(P&Gなど)にも投資するようになったそうです。もし彼女が学ぶ機会を得ていなかったら、「なんとなく親しみやすい日本株に投資していたかもしれない」とのこと。知識が行動につながるかどうかで、その後の資産形成の方向性は大きく変わります。


投資未経験の教師が抱えるジレンマ

ここで冒頭の「投資未経験の先生」の話に戻ります。金融教育が突然カリキュラムに入ったものの、教える側の教師世代はまさに上記の「体系的に学んだことがない」43%に属する人も多いわけです。学校現場では教材研修やマニュアルで知識をインプットし、何とか授業に臨んでいる先生もいるでしょう。しかし、自分自身の投資体験がない中で資産運用の大切さやリスク管理を語るのは、さぞ難しいだろうと想像します。生徒からの素朴な質問に実感をもって答えづらい場面もあるかもしれません。

また、日本の金融機関でも似たような構図があり得ます。かつて銀行や証券会社では、自社の社員が個別株取引をするのを禁じていた時代もありました。そのため、自分では運用経験がないまま投資信託などの商品販売ノルマを課せられるというミスマッチも起きていました。お客様に「この商品は将来有望です」と勧めながら、実は売る側も本当のところは良さが実感できていない──これでは説得力に欠けるでしょう。

要するに、金融教育や投資商品の指導・助言には、やはり実体験の裏付けがあると強いのです。知識だけ教えれば十分というものではなく、「自分もやってみたらこうだった」というエピソードがあってこそ、聞き手の腹に落ちるものではないでしょうか。現状の日本ではここが不足しており、教育と実践のギャップを埋める工夫が求められています。


米国の「トランプ口座」制度が示すもの

こうした中、米国では画期的ともいえる投資支援策が検討されています。その名も「トランプ口座」。米連邦議会で調整中の大型法案に盛り込まれた新制度で、2025年以降に生まれる米国の赤ちゃんに1,000ドル(約14万5千円)を支給し、長期の株式投資に充てるという大胆なものです。具体的には政府が新生児向けの投資専用口座に1,000ドルを拠出し、低コストの米国株指数連動型ファンドで運用します。さらに保護者や企業も年間5,000ドルまでの追加入金が認められ、原則18歳までは引き出せません。教育資金や将来の住宅購入頭金などに充てることを想定した長期運用になります。

この制度、名称からも分かるように当局者の狙いはトランプ大統領の支持率アップにあります。もともとは「MAGA口座」と呼ばれていた案を、自身の名を冠した「トランプ口座」に変えたほどで、その政治的アピールは明らかです。とはいえ内容自体は金融業界からも歓迎の声が出ています。実現すれば米国株式市場に長期マネーが流入し、若者が早期から投資家になることで経済の底力が高まる可能性があります。実際、ゴールドマン・サックスCEOのデービッド・ソロモン氏もホワイトハウスのイベントで「若者が長期投資の効力を理解することは米経済の将来的な活力につながる」と新制度を支持しています。金融教育で知識を与えるだけでなく、実際に資産運用を体験させてしまおうという発想には学ぶ点が多いのではないでしょうか。


日本の金融教育と制度設計の課題

一方の日本を見てみると、ようやく学校教育で金融リテラシー向上に乗り出した段階ですが、制度面での後押しはまだ弱いように感じます。若年層や子どもが実際に投資を経験する仕組みとしては、かつて「ジュニアNISA」という制度がありました。これは未成年者名義で年間80万円までの投資に非課税枠を設けるもので、将来に向け子ども名義で積み立て投資をする家庭もありました。しかしジュニアNISAは2023年で新規受付が終了し、2024年から始まった新NISA制度では未成年は利用対象外になってしまいました。せっかく始まった金融教育を現実の資産形成に繋げる受け皿が、現状の日本には乏しいのです。

さらに、日本人全体の投資参加率の低さも課題です。日銀の統計によれば、日本の家計金融資産の半分以上が預貯金に偏っています。「リスクを取らず貯蓄」という伝統的志向が根強く、“運用貧国”などとも揶揄されてきました。金融教育必修化で若い世代の意識は変わりつつあるものの、教育で知識を得ても一歩踏み出すきっかけがなければ行動は変わらないでしょう。先述のアンケートでも「金融教育を受けても投資しなければ知識は定着しない」といった指摘が示唆されています。結局、大人になってから独学でYouTubeや書籍で学ぶ人が多いのが現状です。

また、教える側の人材育成も大きなテーマです。学校の先生にせよ金融商品のアドバイザーにせよ、自らが投資経験を積むことが望ましいのは言うまでもありません。しかし現実には公教育の先生がリスク資産に手を出すのは難しいケースもあるでしょうし、金融機関でも社員が自由に個人投資を行うのは制約がある場合があります。制度的・文化的なハードルが存在する中で、どうやって「経験に裏打ちされた金融教育」を提供していくかは、日本が直面する課題と言えます。


少子化対策と金融リテラシー向上を両立する提言

では、日本も米国の「トランプ口座」のように、実践と教育を結びつける施策を導入できないものでしょうか。私が注目したいのは、これを少子化対策とも絡めてしまうアイデアです。具体的には、ジュニアNISAの復活版として、たとえば「こども教育投資制度」を創設してはどうかという提言です。新しく生まれた子ども一人につき政府が一定額(たとえば10万円程度)を拠出し、その子名義の投資信託(できれば日本を含む世界株指数連動型など)を購入してあげるのです。18歳までは原則引き出せず、運用益は非課税とする点はトランプ口座と同様です。こうすれば生まれた瞬間から「自分の投資口座」を持つ世代が育つことになります。

この仕組みは一石二鳥です。まず経済的には、子どもの教育資金や新生活を始めるための初期資金の一部を国がサポートする形になり、各家庭の負担軽減につながります。加えて出生時に一時金が出るとなれば子育ての経済的不安がわずかでも和らぎ、少子化対策のインセンティブにもなり得ます。さらに重要なのは、子ども自身が成長過程で「自分名義で投資運用がされている」という事実に触れられることです。学校で習う金融知識も、身をもって感じる自分の資産運用の存在があれば格段にリアリティを持つでしょう。親も「国があなたの将来のために用意してくれたお金が運用されているんだよ」と教えることで、家庭での金融リテラシーを身につけるための会話が生まれるかもしれません。

もちろん財源の問題や、「国がお墨付きを与えた金融商品に偏るのはどうか」といった議論も出るでしょう。しかし、預貯金偏重からの脱却次世代の投資マインド醸成を本気で図るなら、思い切った制度設計も必要ではないでしょうか。米国の例に倣って、日本でも政治主導で未来の投資家を育てる施策が検討されてもよい時期かもしれません。

まとめますと、金融教育は知識の種まきに過ぎません。芽を出し成長させるには、水や肥料にあたる実体験が欠かせないのです。先生や大人たちが経験不足でもどかしさを感じる現状だからこそ、制度面も含めて若いうちから投資に触れる機会を作ることが重要です。知識と実践の両輪で初めて、本当の意味でお金と賢く付き合える人々が育っていくのではないでしょうか。日本も「教えるだけで終わらせない」次の一手に踏み出す時期に来ているように感じます。


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