7月だというのに連日の酷暑には参ってしまいますね。実際、今年の夏は「もはや熱帯夜という言葉は死語」と言われるほど夜になっても気温が下がらず、暑さに悩まされている方も多いでしょう。ところで皆さん、こうした日々のニュースを「投資に置き換えたら?」と考えたことはありますか?私たち投資家にとって、異常気象のニュースは単なる天気の話題ではなく、将来の市場変化を捉えるヒントになるんです。本日は「環境の変化に対応する投資目線の大切さ」について、最新の話題を交えながら一緒に考えてみましょう。
・海面水温の急上昇が招く異常気象 ・猛暑で変わる消費行動:何が売れて何が落ち込む? ・エネルギー業界に突きつけられた課題 ・観光業にも忍び寄る気候リスク ・生態系へのダメージと供給不安 ・持続可能な未来へ:適応力の高い企業を見極めよう ・おわりに:ニュースを味方に未来を読む ・書籍紹介
海面水温の急上昇が招く異常気象
まず注目したいのは、今年世界中で記録的な海面水温の上昇が起きていることです。2023年春から地球全体の海水温が一斉に急上昇し、観測史上最高レベルに達したまま2024年以降も高止まりしています。研究者は「気候システムのレジームシフト(段階的な劇的変化)が起きた可能性がある」と指摘するほどで、日本近海の海面温度は世界でも群を抜いて異常な状態です。場所によっては平年より海面水温が10℃も高い海域すらあり、たった+2℃の水温上昇でも異常気象を引き起こすとされてきた常識を覆すレベルだといいます。
この海の異常高温化は、今年の猛暑とも深く関係しています。実は日本では今年、観測史上最も早い梅雨明けを迎えた地域が多く、6月下旬に日差しが降り注いだ結果、海水が強烈に温められてしまいました。海は一度温まると冷めにくく、「夏場に沸かしたお風呂が翌朝まで生ぬるい」ように熱を蓄えます。そのため、7月に入っても日本周辺の海面温度は下がらず、暖かい海風が夜間も熱と湿気を運ぶせいで気温が下がらないのです。こうして酷暑が長引くと秋が短くなり、日本は夏と冬だけの「二季の国」になりつつある、とも指摘されています。季節感が変わってしまうほどの気候変動が現実となりつつあるわけですね。
ポイントは、日々の気候ニュースの裏側に経済への影響が潜んでいるということです。例えば猛暑や台風など異常気象が増えれば、人々の生活様式や産業活動も変化を余儀なくされます。この変化をいち早くキャッチし、「では投資ではどう動くべきか?」と考えるのが賢い投資家の視点です。
猛暑で変わる消費行動:何が売れて何が落ち込む?
異常な暑さは、私たちの消費行動にもはっきり表れます。例えば「猛暑で冷房費が前年比30%増…」「台風による直前キャンセルが3年前の2倍に…」といった声が全国各地のホテルから聞こえており、気象の変化が観光業の経営に確実に影響しているそうです。極端な暑さは日常の買い物や娯楽の選択にも影響を与え、経済のwinners(恩恵を受ける側)とlosers(打撃を受ける側)を生み出します。
◼︎1,猛暑で売れるもの・サービス(プラスの影響)
⚫︎清涼飲料やビール、アイスクリーム類
熱中症予防や涼をとる目的で、冷たい飲み物やお菓子の需要が急増します。実際、猛暑の年には清涼飲料市場が拡大し、ビールなどの売上も伸びる傾向があります。
⚫︎冷房家電(エアコン・扇風機等)
暑さ対策の必需品としてエアコンや扇風機が飛ぶように売れます。特にエアコンは品薄になることもあり、関連企業の業績を押し上げる要因になります。冷蔵庫や冷却マットなど、夏向け家電全般の需要も増えるでしょう。
⚫︎レジャー・旅行
プールや海水浴、避暑地への旅行が活発になり、交通機関や宿泊施設が潤います。夏休み期間中は家族での旅行やレジャーが盛んになり、観光地やテーマパーク(屋内型)は賑わいを見せます。
⚫︎外食産業
暑い日は涼しい場所で食事をしたいもの。冷房の効いたレストランやカフェへの来客が増え、ビアガーデンなど夏季限定イベントも盛況になります。
◼︎2,猛暑で打撃を受けるもの・サービス(マイナスの影響)
⚫︎屋外娯楽・テーマパーク
炎天下で長時間並ぶ必要がある屋外テーマパークなどは、来場者が減少しがちです。「暑すぎて遊べない」という声が出て、売上減に繋がるケースもあります。
⚫︎教育・習い事
意外かもしれませんが、猛暑日は子どもを塾に送り出すのを控える親御さんも。外出が億劫になり、習い事や学習塾への出席率が下がる傾向があります。夏休みの講習なども影響を受けるかもしれません。
⚫︎ガスや冬物商品
夏場は暖房用のガス需要が落ち込むほか、猛暑が続くと冬物衣料や暖房器具の販売時期が後ろ倒しになり、小売業の計画に支障をきたす可能性があります。
このように、猛暑一つ取っても「追い風を受ける業界」と「向かい風に苦しむ業界」が存在します。投資初心者の方は、ぜひ日々のニュースに接した際「これは何が売れて何が売れなくなるサインだろう?」と考えてみてください。例えば今年の夏は飲料メーカーや冷房機器メーカーにとって追い風かもしれませんし、逆にテーマパーク運営企業にとっては集客苦戦のリスクシグナルかもしれません。実際、過去の例として2023年の猛暑では、清涼飲料の生産量が増えて市場が拡大した一方、野菜の生育不良による価格高騰が懸念されました。投資のヒントは日常のなかに潜んでいるのです。
✴️豆知識:猛暑後の「反動消費」に注意?
猛烈に暑い夏は一時的に関連消費を底上げしますが、その反動にも目を向ける必要があります。例えば冷房代や飲料代で夏に出費がかさんだ家庭は、秋以降に節約志向を強める傾向があると指摘されています。企業の売上も、夏に伸びた分が秋に落ち込むケースがあるかもしれません。投資家としては短期的な盛り上がりだけでなく、その後の反動も考慮に入れることが大切です。
エネルギー業界に突きつけられた課題
猛暑が続くことで真っ先に影響を受けるのが電力エネルギー業界です。昨年(2024年)の夏、日本は電力需給の綱渡り状態を経験しました。各地で気温35度超えの日が相次いだ7月上旬、東京電力や関西電力の管内では冷房需要が想定以上に増え、一時電力供給が足りなくなったのです。急遽、中部地方など他エリアから電力の融通を受けて乗り切りましたが、電力会社間の緊急融通(相互送電)は一昨年の夏ゼロ回だったものが昨年は7月上旬時点ですでに11回にも達しました。わずか1年前には想定もしなかった頻度で、電力不足が現実化したのです。
東京電力管内では発電設備の供給力自体は前年と同程度確保していたにもかかわらず、「想定外の気温上昇」と老朽火力発電所のトラブルが重なり、供給余力(予備率)が急落しました。関西電力でも稼働中の原発6基があったにもかかわらず夕方に需要が想定を上回り、他社からの融通を受ける事態に陥っています。政府は「10年に1度の猛暑」を想定してもこの夏は乗り切れるとして節電要請を出さない方針でしたが、現実の暑さはその想定を上回ったと言えます。昨年はインバウンド(訪日外国人)の増加もあり、前年よりエアコン需要が増える見込みとも報じられました。気候変動による予測困難な需要増は、エネルギー供給インフラの新たなリスクとして浮き彫りになったのです。
では、このニュースから私たち投資家は何を読み取れるでしょうか。鍵となるのは「エネルギーの安定供給と脱炭素」という視点です。猛暑で需要ピークが上振れする中、太陽光発電は日中こそ威力を発揮しますが、日没後には頼れません。今回も太陽光の発電量が落ちる夕方以降に需給が逼迫したことから、蓄電池や電力貯蔵技術への投資が急務であると指摘されました。再生可能エネルギーを安定活用するには、大量の電力を一時的に蓄えて融通できるインフラが不可欠ですが、日本ではまだ整備途上です。また、老朽化した火力発電所の休廃止が進む中で安定供給を維持するには、蓄電技術の開発や分散型電源への投資促進といった事業環境の整備も求められています。
投資の観点から見ると、エネルギー関連では次のような分野に注目できそうです。
⚫︎蓄電池・エネルギー貯蔵
猛暑を契機に蓄電技術への需要が高まっています。実際、国内外のメーカーやスタートアップが大容量バッテリーやスマートグリッド技術を競っています。蓄電池市場は今後拡大が見込まれ、関連企業は成長余地が大きいでしょう。
⚫︎再生可能エネルギー
太陽光や風力といった再生エネ発電設備、及びそれらを支える送配電網への投資も引き続き重要です。極端気象で化石燃料発電のリスク(燃料調達難や設備故障)が浮き彫りになる中、クリーンエネルギーへのシフトは政府支援もあって加速する可能性があります。
⚫︎省エネ・需要コントロール
需要側では、高効率な空調機器や断熱材、省エネ住宅など「使う電力を減らす」技術にも注目です。猛暑はエアコン需要を生みますが、省エネ性能の高い製品を求める動きも強まるはずです。また電力需給を調整するデマンドレスポンス(需要応答)サービスなど、新しいビジネスも広がっています。
エネルギーは経済の血液とも言えます。極端な気候が続く時代に備え、電力の安定供給という社会課題を解決できる企業は、中長期的に評価が高まるでしょう。ニュースを見たとき「どの企業がこの課題解決に貢献できるか?」と想像してみると、投資先選びのヒントになります。
観光業にも忍び寄る気候リスク
観光業界も気候変動の影響から逃れられません。先ほど触れたように、既にホテル業では開花時期のズレや猛暑・台風によるキャンセルなど具体的な影響が出ています。日本の観光は四季折々の自然が売りですが、その季節の風物詩が変わりつつあります。
例えば桜の開花は年によってかなりブレが生じ、満開予測が難しくなっています。紅葉も暖秋の年は色づきが悪く、観光客をがっかりさせてしまうことがあります。冬は深刻で、近年は雪不足に悩むスキー場が増えました。実際、フランス・アルプスのあるスキー場では雪が少ない年が続いたため2024年についに閉鎖に追い込まれました。日本でも標高の低いスキー場を中心に、営業継続が危ぶまれるケースが出ています。スキー場が閉まれば、周辺のホテルや飲食店、関連雇用にも波及します。観光地全体の収入減少や雇用喪失といった連鎖的な経済影響も無視できません。
また、台風や豪雨など極端現象による安全面の懸念も観光にはマイナスです。近年「線状降水帯」による記録的大雨や、想定外の大型台風が増えています。こうした災害リスクが高まると、旅行者が敬遠したり保険コストが上昇したりする可能性があります。
観光業界では既に気候変動への対応が始まっています。2024年のCOP29(気候変動枠組条約締約国会議)では、史上初めて観光業の気候対策が議題に盛り込まれ、世界の観光業をより環境に優しくするための宣言に50ヶ国以上が署名しました。観光産業は世界GDPの約3%を占める一方で、温室効果ガス排出量の約8.8%を占めているといいます。特に新興国では観光が貴重な外貨収入源である反面、ハリケーンや熱波、干ばつといった気象災害の打撃をまともに受ける脆弱性があります。そこでホテル業界では業界全体で温室ガスや水使用量などを測定・報告する取り組みが進められつつあります。言い換えれば、「気候対応力の高い観光事業者」がこれから評価される時代になってきたのです。
投資家目線では、観光関連企業にも選別の目が必要でしょう。例えばサステナビリティに積極的なホテルチェーンや旅行会社は、行政からの支援やブランド評価の面で有利になるかもしれません。具体的には、省エネ改修や再生エネ電力導入を進めるホテル、気候リスクを考慮した立地展開(無理な開発をしない、脆弱地域は避ける等)を行うレジャー企業、また気候変動で人気が高まる地域(例:夏でも涼しい高原リゾートや、異常気象でも安定した気候の観光地)にいち早く注目する企業などが考えられます。逆に旧来型で環境対応が遅れた企業は、リスク管理が不十分として投資対象から敬遠される可能性もあります。
生態系へのダメージと供給不安
環境変化は生態系や一次産業にも影響を及ぼします。その典型例が漁業・水産業です。近年ニュースになっていたのが、北海道で良質な出汁に欠かせない昆布(コンブ)の不作問題。北海道東部・知床半島の羅臼町では、2023年の秋に沿岸の海水温が25℃に達し、生産者たちが「経験したことのない高水温だ」と驚いたそうです。コンブは冷たい海を好む海藻ですから、高温だと育たず根元が腐ってしまう(根腐れ)現象が起きます。その結果、羅臼産の養殖コンブは例年の半分以下しか収穫できない生産者が続出しました。
2024年度の北海道産コンブ生産量はついに1万トンを割り込み、30年前の3分の1の水準にまで減少しました。温暖化による海の変化が水産資源に大打撃を与えている典型的なケースです。
コンブに限らず、海水温の上昇は様々な海の幸の分布変化を引き起こしています。例えば北海道周辺では秋サケやサンマの不漁が続き、代わりに南方系の魚(ブリなど)が北上して水揚げされるケースが報告されています。農業でも、高温や異常気象が野菜や果物の生育を乱し、生産量減・品質低下を招いています。先ほど触れたように韓国では猛暑で白菜価格が高騰し「キムチ危機」と報じられましたが、日本でも気候変動により秋冬野菜が不作・高騰する懸念があります。こうした供給面の不安は食品メーカーや外食産業にとって原材料コストの上昇リスクとなり、ひいては消費者物価にも影響しかねません。
しかし同時に、ここにも投資の視点が潜んでいます。環境変化に適応しようとする企業や技術に目を向けるチャンスです。アグリテック(農業テック)分野では、気候に強い新品種の開発や植物工場・スマート農業によって安定生産を目指す動きがあります。水産業では陸上養殖や海洋酸性化に強い品種の育種研究など、気候変動下でも持続可能な方法が模索されています。例えば不漁が続くサンマに代わる養殖魚ビジネスや、代替シーフード(植物性代替魚など)を開発する企業が注目を集め始めています。投資家としては、こうした「食のサステナビリティ」に取り組む企業をリサーチしてみる価値があるでしょう。伝統産業と思われがちな農林水産業も、今やテクノロジーや創意工夫で生まれ変わろうとしています。その変化にアンテナを張れば、新たな有望銘柄との出会いがあるかもしれません。
持続可能な未来へ:適応力の高い企業を見極めよう
ここまで見てきたように、気候変動による環境の変化はあらゆる業界に影響を及ぼしています。重要なのは、それに適応しようとする企業が確実に存在し、むしろビジネスチャンスを掴み始めているという点です。
最近の調査では、気候変動への適応につながる商品・サービスから収益を得ている企業は世界で2,100社以上もあり、その売上は合計1兆ドル(約150兆円)を超えることが明らかになりました。物流、食品加工、不動産など実に幅広い業種の企業が、猛暑や水害など「気候の物理的リスク」に対応するソリューション提供によって利益を上げています。これは裏を返せば、「適応とレジリエンス(回復力)はグリーン経済の新たな成長源になりつつある」ということです。実際、世界の大手金融機関もこの分野に注目しており、JPモルガンやシンガポール政府系ファンドなどが気候適応ビジネスへの投資に乗り出しています。
では、私たちは具体的にどんな企業・業界に注目すれば良いのでしょうか?ヒントとなるキーワードをいくつか挙げてみます。
⚫︎適応テクノロジー
洪水対策インフラや山火事監視システム、気象データ分析サービスなど、異常気象の被害を軽減する技術を持つ企業。災害大国である日本でも、防災テックや気象ビッグデータ解析企業は今後需要が高まるでしょう。
⚫︎エネルギー転換と効率化
前述のように蓄電池や再生エネはもちろん、送電網の強靭化や省エネソリューションを提供する企業。エネルギーマネジメントやスマートシティ関連もこの範疇です。政府の脱炭素政策とも合致し、資金が集まりやすい分野です。
⚫︎グリーンな観光・交通
環境に優しい観光サービス(例:エコツーリズム、カーボンオフセット旅行)や、脱炭素の移動手段(EVバス、鉄道インフラなど)に投資する企業。観光業の気候対策が国際的に議題となった今、旅行業界も持続可能性を無視できなくなっています。先進的な取り組みをする企業はブランド価値も高まり、長期的な競争力につながるでしょう。
⚫︎持続可能な食とヘルスケア
気候変動で食料供給が不安定になる中、代替タンパク質(植物肉、培養肉)や気候に強い農作物開発、フードロス削減ビジネスなどに取り組む企業。さらに猛暑で需要が伸びる健康管理(熱中症対策グッズ、スポーツドリンク等)に注力する企業も注目です。人々の健康ニーズに応えるビジネスは社会的意義も大きく、支持を集めやすいでしょう。
⚫︎ESG経営の先進企業
気候変動を経営リスクと捉え、TCFD※に基づく情報開示やカーボンニュートラル目標を掲げている企業は、総じて適応力も高いと考えられます。サプライチェーン全体で環境対応を進める企業はレピュテーションが向上し、投資マネーの流入も期待できます。
※TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)…企業に気候変動リスクと機会を開示することを求める国際的枠組み
以上のように、環境変化に柔軟に対応できる企業こそがこれから強みを発揮し、市場から評価される可能性があります。逆に「気候変動なんて自分たちのビジネスに関係ない」と高をくくっている企業があるとしたら、それ自体がリスク要因かもしれません。投資先を選ぶ際は、その企業が環境変化にどう向き合っているかをチェックすることをおすすめします。
おわりに:ニュースを味方に未来を読む
酷暑から始まった今回の話題ですが、気候がもたらす変化が消費や産業、そして投資の世界につながっていることを感じていただけたでしょうか?「日々のニュースを投資に置き換えたら?」という視点は、最初は少し難しく思えるかもしれません。でも大丈夫。最初は「飲み物が売れそうだな」程度の直感で構いません。それをきっかけに関連企業の業績や取り組みを調べてみる—この積み重ねが、必ずや投資判断力の向上につながります。
環境も経済も常に変化しています。だからこそ、私たち投資家も変化に対応する柔軟さが求められます。幸い、世の中の出来事は常に何らかの形でマーケットとリンクしています。ニュースを他人事と捉えず、「もし自分のポートフォリオに置き換えたら?」と考える習慣をぜひ身につけてください。それはきっと、未来のチャンスを先取りするアンテナになるはずです。
暑い日が続きますが、体調に気をつけつつ、日々のニュースから投資のヒントを見つけていきましょう!