2025/10/09

金価格が上昇する理由 〜インフレ時代の投資戦略をやさしく学ぶ〜

はじめに

米ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の創業者レイ・ダリオ氏が「通貨価値が下落する世界でゴールドは上昇する」と語ったことが話題になっています。彼は「我々は世界を自国通貨というレンズを通して見がちだが、実際には通貨の価値そのものが上下しているだけだ」という認識を持っており、ポートフォリオの約15%をゴールドに割り当てることが合理的だと提案しています。今回は、ゴールドだけに偏るのではなく、株式やその他の資産とのバランスを考えつつ、なぜ通貨が価値を失う世界ではゴールドが輝き続けるのかを歴史的・経済的視点から解説します。



通貨が弱くなる背景

◼︎1 過剰な債務と金融政策
近年、世界各国の政府や中央銀行は巨額の債務を抱えたまま金融緩和を続けています。米国では政府債務が37兆ドルを超え、年間の財政赤字は2兆ドル近い規模に膨らんでいます。ダリオ氏は、政府が利払いを続けるために中央銀行が通貨を発行する状況が続けば、通貨価値が下落し、国債の魅力が低下すると警鐘を鳴らしています。このような「財政の赤字ファイナンス」は日本や欧州でも起きており、欧州中央銀行や日本銀行の政策金利は低水準で据え置かれています。世界的に「経済を熱く走らせる(run hot)」スタンスが広がり、株式市場は人工知能ブームの追い風もあり史上最高値を更新する一方で、インフレ率は依然として中央銀行の目標を上回っています。

◼︎2 通貨の信認低下と危機の連鎖
中央銀行が大量に通貨を発行し続けると通貨供給が過剰になり、実質的な価値が希薄化します。歴史を振り返ると、1971年の「ニクソン・ショック」で米ドルと金の兌換が停止されて以降、各国は管理通貨制度に移行し、通貨と金のリンクがなくなりました。この変化はゴールド価格に大きな変動をもたらし、1970年代のスタグフレーション期には金価格が高騰しました。1933年にルーズベルト大統領が金兌換の停止とドル切り下げを行った時も同じように、通貨の信認低下が金価格の上昇を招きました。さらに2008年の金融危機や2020年のパンデミック時にも、景気刺激策として大規模な金融緩和が行われ、金が安全資産として再評価されました。

◼︎3 現在の「熱い」経済環境
2025年現在も多くの国が財政拡張と低金利政策を続けています。米国や日本、欧州のコアインフレ率は依然3%前後と高止まりし、長期的なインフレ期待も2.4%程度に上昇しています。日本では新政権が追加財政刺激を打ち出す可能性が高まり、欧州ではドイツの歴史的規模の財政刺激が予定されています。このため株式市場にはAI関連銘柄を中心に資金が流入し、米国S&P500やナスダック指数が過去最高値を更新する一方、債券市場では長期金利が上昇しています。


ゴールドの歴史的役割

◼︎1 通貨価値低下への防衛手段
ゴールドは「世界最強の通貨」とも言われます。金は人為的に増やすことができず、その希少性や耐久性から長期的な価値の保存手段として利用されてきました。インフレや通貨価値の下落が進む局面では、金の価値が相対的に上昇する傾向があります。また、金はどの国の信用にも依存せず、世界中で流通・換金が容易です。株式や債券のように発行体の破綻リスクを負わないため、他の資産と相関が低い「安全資産」として認識されています。

◼︎2 中央銀行による購入
最近の金価格上昇を支えている要因の一つが中央銀行の積極的な買いです。世界各国の中央銀行は2022年以降、年1,000トンを超えるペースで金を購入しており、2025年も約900トンの買いが続くと予想されています。世界の金需要に占める中央銀行のシェアは23%に達し、2010年代の倍近くに拡大しました。ポーランドや中国などの新興国は、ドル資産への依存を減らし、金を外貨準備に組み込む動きを強めています。中国人民銀行は2023年に225トン、2024年に44トン、2025年にはさらに21トンを購入し、外貨準備の金比率を高めています。これらの動きは、ロシアの外貨準備が西側の制裁で凍結されたことが背景にあり、ドルの安全性への疑念が金需要を押し上げているのです。

◼︎3 投資家の「デベースメント・トレード」
金価格の急騰は個人投資家や機関投資家の行動も反映しています。政府債務の拡大や中央銀行の独立性への懸念から、投資家は通貨価値の下落を警戒し、金やビットコインといった「ハード・アセット」を買う「デベースメント(通貨価値切り下げ)トレード」を加速させています。金とビットコインは2025年にともに過去最高値を更新し、米ドル指数は下降基調にあります。シタデルのケン・グリフィン氏は、ドルから資金が流出し金と暗号資産に資金が流入していることを「懸念すべき現象」と評しています。JPモルガンの分析によれば、金のETFや投資信託への資金流入が金鉱株や採掘企業への投資を上回っており、個人投資家が金そのものの価値保存機能を求めていることが分かります。また、パンデミック以降はプライバシーと実物資産への需要が高まり、ゴールドバーやコインの購入も増えています。


ゴールドと株式の関係

◼︎1 株式市場の熱狂とリスクヘッジ
AIブームや経済刺激策の効果で株式市場は歴史的な高値を更新していますが、過去の例からも過熱相場の後には調整が訪れる可能性があります。多くの投資家は株式の高バリュエーションを警戒し、安全資産である金を組み合わせることでポートフォリオを「バーベル型」に構築しています。これはハイテク株の急成長と金の防衛力の両方に賭ける戦略であり、マクアリー・グループのウィズマン氏は「AIブームが裏切られた場合の保険として金が機能する」と述べています。

◼︎2 金ETFへの資金流入
2025年に入り、金連動ETFへの資金流入が急増しています。スポット金価格は10月に4,000ドルを突破し、年初から51%上昇と1979年以来の大幅な上昇率となりました。世界の金ETFへの流入は年初から640億ドルに達し、9月だけで173億ドルが流入したとワールド・ゴールド・カウンシルは報告しています。資金が流入した結果、金ETFが運用する金保有量は過去最高水準に近づいています。モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン氏は、ポートフォリオの20%を金に割り当てることを推奨し、多くのアナリストが金価格のさらなる上昇余地を見込んでいます。


初心者に向けたゴールド投資のポイント

⚫︎1 購入方法の選択
金への投資方法にはさまざまな種類があります。現物の金地金やコインを購入する方法は、実物資産の所有感とプライバシーを得られる反面、保管や保険のコストがかかります。一方で金価格に連動するETFや投資信託を利用すれば、少額から手軽に投資でき、保管の手間もありません。ダリオ氏が推奨するポートフォリオの15%前後の金配分は、これらの手段を組み合わせることで実現可能です。

⚫︎2 分散投資を心がける
金は通貨価値の下落や株式市場の暴落時に力を発揮しますが、長期的には株式やその他資産の方が高いリターンをもたらすこともあります。実際、1972年に100ドルを金に投資した場合、2024年には約4,500ドルに増えましたが、同じ100ドルをS&P500に投資すると約18,500ドルになっています。金はあくまでもポートフォリオの保険として位置づけ、株式や債券、不動産など他の資産とのバランスを取ることが重要です。

⚫︎3 投資のタイミングに注意
金は長期的な価値保存手段ですが、短期的には価格変動が大きくなることがあります。中央銀行の利上げや株式市場の反発が起きると金価格は調整する可能性があるため、一度に大量に購入するのではなく、定期的に少しずつ積み立てるのが無理のない方法です。また、投資目的を明確にし、短期的な値上がり益を狙うのか、長期的な保険として保有するのかによって戦略を変える必要があります。


おわりに:小川からのメッセージ

通貨の価値が下落する世界では、資産の「本当の価値」を見極めることが大切です。ダリオ氏が言うように、私たちはつい自国通貨の価値を絶対的だと考えてしまいがちですが、通貨そのものの価値が上下する中では金や他の実物資産の役割が大きくなります。とはいえ、金も万能ではありません。株式市場の成長や新しいテクノロジーの可能性を取り入れつつ、金という「最強の通貨」をポートフォリオに適度に組み入れることが、長期的な資産形成に有効だと考えます。参考にして下さい。


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