テクノロジーと労働の変化を読む
日本でも世界でも、働き方が大きく変わろうとしています。たとえば、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、自社の銀行アプリと対話型AI「ChatGPT」を連携させる日本初の取り組みを発表しました。利用者はChatGPTを通じて口座情報を分析し、家計管理や資産運用のアドバイスを得られるようになるそうです。このようにAIとの対話がサービスの起点になる時代が近づいています。
一方、米国最古の銀行であるBNYメロン銀行では、100人以上の「AI従業員」が既に働いています。メールアドレスやシステム権限を与えられ、人間と同じように社内外とやり取りするデジタル労働者たちです。バックオフィス業務を中心に活躍する彼らのおかげで、人手を大幅に増やさずとも業務の処理能力を高めることに成功しています。その結果、過去3年の株価上昇率は米大手銀行の中でトップクラスとなり、変革への対応が投資家から高く評価されています。
これらの事例は、テクノロジーの進歩が私たちの仕事や投資環境に直結していることを物語っています。では、AIがますます存在感を増すであろう2026年以降の世界で、「AIに代替されない人間の価値」とは何なのでしょうか?また、人は何のために働き続けるのか、そして変化を拒む人にはどんな現実が待ち受けているのか。本記事では、最新の動向を踏まえながら、これからの労働市場と投資環境を読み解いていきます。
・AIと人の仕事:人が働く意味とAIにない価値 ・「成長する人間」か「拒む人間」か:選別される2026年以降の雇用環境 ・教育と育成の再考:リスキリングは生き残りのカギ ・コンサルや折衝業務もAI時代に突入:台頭する超優秀なAIパートナー ・投資家視点でのAI共存戦略:優秀なAIアドバイザーと付き合う方法 ・情報感度と柔軟性が勝敗を分ける:日々変化するAIニュースを読む力 ・書籍紹介
AIと人の仕事:人が働く意味とAIにない価値
「AIが仕事を奪うのではないか?」という不安が広がる中、人が働く意味を改めて考えてみましょう。実際、世界経済フォーラムの報告では今後5年で9,200万件の雇用が失われる一方、1億7,000万件の新たな雇用が生まれると予測されています。単純計算で約22%の仕事が入れ替わる規模の変化です。この変化の背景には、生成AIやロボットによる自動化の進展が挙げられます。カスタマーサポートやデータ入力など、定型的で繰り返しの多い仕事はAIに任せたほうが効率的だからです。
ではAIに代替されにくい人間の価値とは何でしょうか?それは、創造性や共感力、倫理観や直感といった「人間ならでは」の力です。たとえば新しいアイデアを生み出したり、相手の気持ちを汲み取ったりする能力は、現時点のAIが最も苦手とする部分です。実際、AI時代に成長が期待される職種は「ビッグデータスペシャリスト」「AIエンジニア」などテクノロジーを扱う仕事に加え、クリエイティブ職や教育・医療など人間的な価値を発揮できる領域が含まれます。介護や幼児教育の現場では、人間の温かみや思いやりが欠かせません。同様に、経営判断や法律のように高度な倫理観や責任が伴う領域も、人の役割が残るでしょう。
企業側も「AIではできないこと」に着目しています。実例として、カナダ発の大手EC企業Shopifyの社長は「AIではできない理由が示されない限り、新たに採用はしない」と語りました。裏を返せば、「AIにできないことをやれる人材」こそが欲しいというメッセージです。人間が働く意味は、単に労働力としてではなく、AIにはない価値を提供することにシフトしつつあります。私たち一人ひとりが、自分の強みはAIに置き換え可能なのか、それともAIでは真似できない価値を生み出せるのかを問い直す時代になってきたのです。
「成長する人間」か「拒む人間」か:選別される2026年以降の雇用環境
技術の波に乗り自己成長していく人と、変化を拒んで現状にとどまる人。2026年以降、この差がこれまで以上に雇用環境で明暗を分けるでしょう。
BNYメロン銀行のロビン・ビンスCEOは、組織改革を進める過程で「変革に適さなかった人には別れを告げざるを得なかった」と明かしています。細分化された縦割り組織を一新し、部門の壁を越えたチームづくりを進める中で、新しい方向について来られない人材は残念ながら淘汰されたという現実があります。これは極端な例かもしれませんが、今後多くの企業で起こり得ることです。
実際、日本でも「黒字リストラ」と呼ばれる現象が増えています。業績は黒字なのに、将来を見据えて早期退職を募る企業が相次いでいるのです。2025年にはパナソニックや三菱電機といった名だたる大企業が人員削減に踏み切りました。その背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI導入による人材のミスマッチがあると言われます。要するに「これからの時代に必要なスキルを持った人材」と「従来型のスキルしかない人材」を振り分け、前者を残して後者を減らす動きです。
アメリカではさらに顕著で、2025年上期だけで約9万人ものテック業界従業員が解雇されました。Shopifyの例のように「AIで代替できない理由がない限り採用しない」という姿勢も広まりつつあり、「人が多すぎるのでは?もっと少人数でも回せるはず」という企業側の本音が透けて見えます。
こうした環境では、学び続ける人が圧倒的に有利です。新しいAIツールが登場すれば使いこなし、自分の業務に活かす。業界の動向が変われば素早くキャッチアップし、スキルをアップデートする。そんな「成長する人間」は企業にとって貴重な戦力となります。その一方で、「自分のやり方を変えたくない」「新しい技術は苦手だ」と尻込みする「成長を拒む人間」は、残酷ながら職を失うリスクが高まるでしょう。
数字でもそれは表れています。世界経済フォーラムによれば、今後5年で働き手の約39%は現在のスキルが陳腐化するか刷新を迫られるとされます。裏を返せば、ほぼ4割の人が何らかのリスキリング(学び直し)を必要とするということです。もはや「今までの経験だけでは食べていけない」現実が目前に来ています。
教育と育成の再考:リスキリングは生き残りのカギ
では、こうした急激な変化に備えるために何ができるでしょうか。キーワードは「リスキリング(Reskilling)」です。リスキリングとは、新しいスキルを習得し直すことで、簡単に言えば大人の学び直しですね。
従来、企業の研修といえば「今の仕事に必要な知識や資格を取る」ことが中心でした。しかしAI時代のリスキリングは少し様相が異なります。なぜなら、数年後には「今は存在しない仕事」が生まれている可能性が高いからです。たとえば数年前には聞き慣れなかった「プロンプトエンジニア」という職種も、いまや生成AIを使いこなす専門職として注目されています。こうした新しい仕事に対応するには、現状の延長ではない非連続な学びが必要になります。
企業も社員のリスキリングを支援し始めています。米小売大手のウォルマートは30万人規模の従業員を対象にしたリスキリング計画を発表しました。AIや自動化によって人手が要らなくなる業務(荷出しやレジ打ちなど)に従事している人たちに、新たに技術職や設備保守といった役割を学んでもらう取り組みです。ウォルマートではすでに自動倉庫やAI分析を導入済みで、15年間従業員数がほぼ変わらないまま売上高を6割以上伸ばすという成果を上げています。これも、社員のスキル転換を進めて生産性を向上させた結果と言えるでしょう。
日本企業でも少しずつ動きが出ています。たとえば日立製作所や製薬会社の一部では、データサイエンティスト育成や実務課題を使ったDX人材の研修などを行い、社員のデジタルスキル底上げに力を入れ始めました。また国レベルではシンガポールが手厚い資金援助と教育プログラムで国民のリスキリングを推進しています。日本でも行政や企業が本腰を入れて支援する動きが加速すれば、個人が安心して学び直しに挑戦できるようになるでしょう。
もちろん最後は本人の意志が大切です。新しいことを学ぶのはエネルギーが要りますし、忙しい日々の中で時間を作るのも簡単ではありません。それでも、自分の未来のためにあえて成長の機会に飛び込む人こそが、これからの時代を切り拓いていくのでしょう。「変化の波に飲まれるか、それとも波に乗るか」教育や育成の重要性を再考し、自ら学び続ける人でありたいですね。
コンサルや折衝業務もAI時代に突入:台頭する超優秀なAIパートナー
「さすがにコンサルタントや交渉ごとは、人間じゃないと無理でしょ」と思っていませんか?実はその前提も崩れつつあります。超優秀なAIパートナーとも言うべき存在が、オフィスワークの世界でも台頭し始めているのです。
前述のBNYメロン銀行では、AI従業員が社外の取引先とのメールのやり取りまでこなしています。これは一種の交渉業務と言えます。また、日本企業の例ではNECが自動交渉AIという技術を開発しています。このAIは人間の代わりに取引条件の調整・交渉を行ってくれるもので、調達や物流の現場でテストが進められています。AI同士がお互いに最適な条件を探り合い、人間の担当者同士がメールや電話で何日もかけていた交渉を瞬時に終わらせる未来も、そう遠くありません。
コンサルティングの世界でもAI活用が進んでいます。経営コンサルタントがAIを相棒にする時代です。ハーバード大学とBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の実験では、GPT-4(高度な生成AIモデル)を使ったチームは使わないチームに比べて40%も質の高い結果を出せたと報告されています。特にブレインストーミングや資料作成など創造的なタスクでAIが威力を発揮し、人間のコンサルタントの働きぶりを大きく底上げしたのです。一方で、複雑な問題解決ではAIが誤った答えを出して成績を落とすケースもありました。つまり、AIの得意分野で協働すれば人間の成果は伸びるが、不得意分野で過信すると逆効果になるということです。
重要なのは、こうしたAIパートナーとどう付き合うかです。今や会議の議事録作成や市場調査の下調べはAIに任せ、人間は戦略立案やクライアントとの信頼構築により注力するといった役割分担が現実味を帯びています。AI時代においても、人間の強み(たとえば人間関係の構築やクリエイティブな発想)は依然として武器になります。ただし、AIを使いこなせる人とそうでない人との生産性ギャップは広がるでしょう。まさに「AIを味方につける人」が活躍し、「AIを使いこなせない人」は取り残される可能性があります。コンサルや営業といった分野でも例外ではありません。
最後に少し未来の話をすれば、AI同士がビジネス交渉を行い、人間同士はそれを管理監督するという構図も考えられます。人間は全体の目標設定や最終意思決定に集中し、その過程のルーチンワークや情報分析は高度なAIパートナーに任せるのです。そうなれば、働き方は劇的に変わりますが、同時に人間の役割もより創造的で戦略的なものへとシフトするでしょう。
投資家視点でのAI共存戦略:優秀なAIアドバイザーと付き合う方法
技術の進歩は、個人の資産運用の世界にも大きな変化をもたらしています。特に注目したいのがAIを活用した投資アドバイスとの付き合い方です。初心者から上級者まで、AIを上手に使えば投資の強力な武器になりますが、使い方を間違えるとリスクもあります。
まず、近年普及しているロボアドバイザーをご存知でしょうか。ロボアドバイザーとは、AIが投資家一人ひとりのリスク許容度や目標に合わせて最適なポートフォリオを提案し、自動で資産運用まで行ってくれるサービスです。忙しい会社員でもほったらかしで運用できるとあって、特に投資初心者には人気ですね。実際、AIが市場のトレンドを分析し人間では発見しにくい相関関係を見つけたり、感情に左右されず24時間自動で取引判断してくれるので、「人間の勘に頼るより合理的」と評価されています。事実、AIをフル活用した投資ファンドやロボアドバイザーの中には、ここ数年で年率20~30%台の高い利回りを出しているものもあります。
とはいえ、AI任せの投資には注意も必要です。2025年時点で、個人投資家の約半数がChatGPTのようなAIツールを投資判断に使ってみたいと考えており、既に13%程度は実際に活用しているという調査結果があります。AIが銘柄選定したポートフォリオが伝統的な投資信託より高いリターンを上げた例も報じられました。しかし専門家は「ChatGPTのような汎用AIを水晶玉のように崇めるのは危険」と指摘しています。たとえば、市場の急落局面でAIが適切にリスク管理できるかは未知数ですし、データにない事象(未曾有のパンデミックや突発的な政変など)には対処できません。実際に「AI投資で順調に儲かっていた人ほど、いざ危機が来たときに対処できない恐れがある」という声もあります。
では、投資家はAIとどう付き合えば良いのでしょうか?ポイントは2つあると考えます。1つ目は、AIを道具として賢く使うこと。たとえばChatGPTに「最新の経済ニュースを要約して」と頼めば短時間で情報収集ができますし、証券会社のAIアシスタントに「この銘柄のリスク要因は?」と聞けば膨大な財務データを元に分析結果を教えてくれるかもしれません。こうしたAIの力を情報収集や分析の補助として存分に活用するのです。ただし最終的な投資判断は自分で行い、AIの提示した情報を必ず鵜呑みにせず裏付けを取る姿勢が重要です。
2つ目は、信頼できる専門特化型のAIサービスを選ぶことです。汎用的なChatGPTは便利ですが、投資専用AIではありません。証券会社やフィンテック企業が提供するAI投資助言サービスや、実績のあるロボアドバイザーを利用することで、より的確なアドバイスを得られるでしょう。これらのサービスは金融データに特化してチューニングされており、一般的な会話AIよりも市場分析に長けています。専門家も「AIに任せるなら金融に特化したプラットフォームを使うべき」と助言しています。
要するに、投資家にとってAIは強力なアシスタントになり得ますが、最終的な判断と舵取りを担うのはあくまで人間です。AIから情報と提案を受け取りつつ、自分の経験や勘も踏まえて判断する。この人間とAIの二人三脚こそが、これからの賢い投資スタイルと言えるのではないでしょうか。AI時代だからこそ、人間の判断力や責任感がより一層試されるとも言えます。
情報感度と柔軟性が勝敗を分ける:日々変化するAIニュースを読む力
ここまで見てきたように、AIに関する動きは日進月歩です。新しいサービスが登場し、大企業が次々とAI戦略を打ち出す中で、常に最新情報にアンテナを張り、柔軟に対応できる人がこれからの市場で勝者となるでしょう。
たとえば、MUFGがChatGPT連携を発表したと聞いて「銀行業界も変わりそうだ」と感じ取れる人は、その流れに乗った行動ができます。実際、MUFGのようにAIを積極活用する企業は業務効率やサービス品質で優位に立ち、結果として株価など企業価値の向上につながりやすいです。投資家であれば、そうした企業をポートフォリオに組み入れるチャンスを逃さないでしょう。一方、情報感度が低いと、世の中が変わってから慌てて対応することになります。極端な話、未だに「うちの業界にはAIなんて関係ない」と高を括っている会社に勤めていたら、気づいた時には市場から取り残されているかもしれません。
柔軟性も欠かせません。AIの進化はときに私たちの常識を覆します。数年前にはなかったサービスや働き方が次々と生まれるため、「自分はこのやり方しかできない」と頑なだと適応できません。逆に「まずやってみよう」と新技術を取り入れる柔軟な人はチャンスを掴みます。これは投資でもキャリアでも共通しています。変化を前提に、自分の戦略やスキルセットをアップデートし続ける人が、生き残りそして勝ち残っていくのです。
幸いなことに、AI関連のニュースや学習リソースは今やネット上に溢れています。公式ブログやニュースサイト、専門家の発信する情報など、学ぼうと思えばいくらでも学べる環境が整っています。通勤時間やすき間時間にニュースアプリでAIの最新動向をチェックしたり、興味がある分野のオンライン講座を受講したりするのも良いでしょう。こうした情報収集と自己研鑽を習慣化している人は、刻一刻と移り変わる情勢の中でも冷静に次の一手を考えることができます。
最後に強調したいのは、「変化そのものを楽しむ余裕」かもしれません。AIによって世の中がガラリと変わる不安は誰しもあります。でも、その変化を嘆くより、「新しいスキルを身に付けるいい機会だ」「今までになかった仕事ができて面白い」と前向きに捉える人の方が、結果的に良いポジションを手にしているように思います。情報に敏感で、変化を柔軟に受け入れ、自らも成長する。そんな人がこれからの市場で勝者となる理由は、もはや説明するまでもないでしょう。
私たち人間にしかない強みを武器に、AIと共存しながら自分らしく働き、賢く資産を増やす。そんな未来をぜひ皆さんにも掴んでいただきたいと思います。変化の激しい時代ですが、だからこそチャンスも多いはず。今日の通勤時間に得たこの気づきを、明日からの行動にぜひ活かしてみてくださいね。