2025/08/16

「自分は狙われない」という危険な思い込み

オンラインで資産運用が当たり前になったIT・AI時代。しかし、「自分のデジタル資産がハッキングされるはずがない」とどこか油断していないでしょうか。便利さの陰に潜むリスクから目を背けていると、大切な資産を一瞬で失いかねません。実際、2025年にはネット証券の証券口座が第三者に乗っ取られる事件が相次ぎ、1~6月だけで不正アクセス1万2千件以上・不正取引約7千件、被害額は累計5,710億円にものぼりました。「デジタル資産はハッキングされない」「自分の口座が狙われることはない」といった誤った信念を持つ人は、そもそもデジタル資産を保有すべきではない――本記事ではそんな警鐘をテーマに、現代の投資環境におけるセキュリティリスクの現実と、便利さと隣り合わせの危険に私たち投資家がどう向き合うべきかを考えていきます。



IT・AI時代の投資に潜むハッキングの現実

株式や投資信託の売買も今やインターネット上で完結する時代ですが、その利便性を悪用したサイバー犯罪も現実に起きています。冒頭で触れた証券口座乗っ取りの被害では、保有株が勝手に売却され、見知らぬ中国株などに置き換わっていたケースが多数報告されました。被害の原因はフィッシング詐欺メールやマルウェア感染によるID・パスワードの流出が考えられていますが、「まったく心当たりがない」という被害者も少なくありません。犯行グループは巧妙で、メール本文や偽サイトの出来も一見しただけでは本物と区別がつかないほどです。高度なAI技術の悪用により、日本語の不自然さがない詐欺メールが大量生成されるようになったとも指摘され、サイバー攻撃は年々巧妙化しています。つまり、IT・AI時代の投資環境では常にハッキングリスクがつきまとっているのが現実なのです。


「自分はハッキングされない」という油断の落とし穴

多くの人は「私は大丈夫」と考えがちです。しかし、その油断こそが大きな落とし穴です。実際、楽天証券で相次いだ不正アクセス被害でも、「フィッシング詐欺メールには引っかかっていない」と主張する被害者が少なくありませんでした。楽天証券側は「フィッシング詐欺が増加しており、メールが巧妙化した結果、自分が詐欺被害に遭ったことに気付いていない方も多い」と指摘しています。ある被害者の女性は、勤務先で情報セキュリティ研修を受け、証券会社からのメールに記載されたURLは開かず、必ず公式サイトからログインするなど十分に対策していたにもかかわらず被害に遭い、「なぜ自分が狙われたのか全く見当がつかない」と途方に暮れています。また、2025年5月には累計100億円以上の利益を上げたことで有名な個人投資家テスタ氏までもが証券口座を乗っ取られ、大きな話題となりました。プロですら被害に遭う現実に、「テスタ氏ですらやられるなら一般の自分たちはどうすれば」「二段階認証をしていても安心できないのか」といった声が上がり、投資家にとって他人事ではないと強く認識させられる出来事となりました。今まで被害に遭っていないからといって安心するのは、「今まで事故に遭っていないからシートベルトは不要だ」と考えるようなもので、極めて危険です。ハッキングリスクは誰にでも等しく存在し、「自分だけは大丈夫」という慢心が命取りになりかねないのです。


金融庁とネット証券、補償方針を巡る対立

大切な資産が不正アクセスによって奪われた場合、その損失を誰が埋め合わせるのかという問題も浮上しています。今回の証券口座乗っ取り事件では、日本証券業協会と主要証券会社10社(ネット証券含む)が緊急措置として「各社の約款にかかわらず、一定の補償を行う」と5月上旬に表明しました 。しかし、「一定の補償」とはいえ全額戻ってくる保証はなく、実際に大手対面証券は顧客に過失がなければ不正売買された株式を同じ数量だけ買い戻して口座に戻す(原状回復する)方針である一方、ネット証券各社は損害額の2分の1程度を金銭で補償する方向と報じられています。この温度差に金融庁も懸念を示し、証券各社が当初検討していた「被害額の半額または4分の1程度の補償」では不十分として、全額補償への見直しを要請しました。もともと金融商品取引法上、証券会社が顧客の損失を肩代わりする行為(損失補填)は禁じられてきましたが、今回は例外的に補償を認める方向で一致した経緯があります。それだけに証券業界には慎重論も根強く、金融庁からの「全額補償」要求に対して「そこまで会社が負うのは納得できない」という反発が起き、両者の議論は平行線をたどっています。まさにネット証券と金融庁の間で投資家保護策を巡る対話に溝が生じている状態であり、被害者への補償方針の確定が遅れる結果となっています。責任の所在を巡るこうしたすれ違いは、リスクが高まる現状で投資家にとって不安材料と言えるでしょう。


増えるITリテラシー不足の投資家、その危険性

便利なネット取引の普及に伴い、投資の裾野が広がる一方で、サイバーセキュリティへの知識や備えが十分でない投資家も増えています。金融庁がNISA(少額投資非課税制度)の恒久化などを通じて「貯蓄から投資へ」を推進する中、初心者や高齢者を含む幅広い層が市場に参加するようになりました。経済評論家は「日本社会はセキュリティに対する認識が甘く、多要素認証などの導入も遅れていた」と指摘しており、このようなITリテラシー不足は投資家層全体に共通する課題です。特に高齢の投資家ほど「自分は操作ミスや詐欺被害に遭いやすい」と自覚しており、今回のハッキング事件を文字通り「警鐘」と受け止めています。被害が相次いだことを受け、金融庁も証券会社に対しログイン時の多要素認証の義務化などセキュリティ強化策の徹底を打ち出しました。しかし技術的な対策が整備されても、最終的に自分の資産を守るためには、投資家一人ひとりがリスクに対する感度を高め、基本的なセキュリティ対策(パスワード管理や疑わしいメールの無視等)を怠らない姿勢が不可欠です。ITリテラシーの低い投資家が増える時代だからこそ、「自分は狙われない」という根拠のない楽観を捨て、リスクを正しく認識する教育と意識啓発が今まで以上に求められています。


すべてのオンライン資産に共通する「利便性と表裏一体のリスク」

ハッキングリスクは証券口座に限った話ではなく、あらゆるデジタル資産に共通します。ネット銀行の預金口座、不動産や保険のオンライン契約、暗号資産(仮想通貨)やスマホ決済・電子マネーなど、インターネット経由で管理するサービスはすべて不正アクセスによる資産流出の危険と隣り合わせです。例えば銀行では、過去に偽造カードやフィッシングによる不正引き出し被害が相次いだことから、2006年施行の預金者保護法により「銀行側に過失がない場合でも、預金者が自ら責任のない被害に遭った際は銀行が全額補償する」と定められています。それでも被害が起きれば顧客が被った精神的・時間的損失まで完全に取り戻せるわけではなく、金銭補償にも限界があります。要するに、オンラインの利便性とリスクは常に表裏一体であり、「便利だから安心」というわけにはいきません。私たちは便利さの裏側に、このようなリスクが潜んでいることを常に念頭に置く必要があるのです。


便利さの裏側に潜む危険との上手な付き合い方

今回の事件は、デジタル時代の資産運用に潜む危険を改めて浮き彫りにしました。中には「もう株より国債でいいかな…」と極端な方向に舵を切りたくなった被害者もいたようです。しかし便利さを享受できるデジタル技術を今さら手放すことも現実的ではありません。大切なのは、便利さとどう付き合っていくかです。私たち一人ひとりがリスクを正しく理解し、日頃から対策を講じておくことで、被害に遭う可能性を格段に下げることができます。例えば以下のような基本的なセキュリティ習慣を改めて徹底するだけでも、効果は大きいでしょう。

1, パスワードを強固に設定し、定期的に変更する
2, 証券会社や銀行で利用可能な二段階認証・多要素認証は必ず有効化する
3, 定期的に口座の残高やログイン履歴を確認し、不審な動きがないかチェックする
4, 心当たりのないメールやSMSのリンクは絶対にクリックせず、公式サイトや正規アプリから情報を確認する

便利なサービスほど、一度トラブルが起きれば大きな痛手を被ります。だからこそ、「ハッキングされないはず」と高をくくらず、「常に狙われているかもしれない」くらいの危機感でちょうど良いのです。デジタル資産を持つ以上、その裏側にある危険から決して目を背けず、リスクと隣り合わせであることを意識して賢く付き合っていきましょう。便利さの陰に潜む危険とどう向き合うか──その答えを、改めて自分自身に問いかけてみてはいかがでしょうか。


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