海外通販サイトで驚くほど安い商品を見かけることがあります。Temu(テム)やSHEIN(シーイン)といった中国発のECサイトから個人輸入で購入すれば、「安いし送料無料!」とお得感がありますよね。しかし、その安さの裏には、日本の税制上の特例という“抜け穴”がありました。政府は今、その特例を見直そうとしています。貿易を止めて鎖国に戻るべきではありませんが、時代遅れのルールで国内産業が不利になる状況は改善しなくてはならない。そんな動きが日本でも本格化してきました。
本記事では、日本経済新聞の報道「個人輸入品の税優遇廃止へ」を題材に、海外EC優遇策の背景と問題点、諸外国の対応と日本の法整備、投資家目線での影響、そして消費者として安さだけに飛びつくことの落とし穴について解説します。
・海外EC急増と税優遇の不公平問題 ・諸外国の対策と日本の税制見直しの動き ・国内産業保護と投資家への影響:追い風になる銘柄は? ・安さの落とし穴:消費者が知っておきたいこと ・日本を元気にする投資へ:公正な市場で未来志向の選択を ・書籍紹介
海外EC急増と税優遇の不公平問題
まず、なぜ海外ECサイトの商品がそんなに安いのか、そのカラクリを紐解いてみましょう。背景には、日本の「個人輸入品の税優遇制度」という特例があります。これは個人が海外から商品を輸入する際、課税計算の基準となる価格(課税価格)を実際より4割も低く見積もるという制度です。この特例により、本来かかるはずの関税や消費税が大幅に軽減されます。
たとえば、3万円の海外製品を個人利用として輸入した場合、課税価格が3万円から1万8千円に下がります。消費税(10%)は本来3,000円のところ、1,800円の負担で済んでしまいます。国内の小売業者が同じ商品を正規に輸入すると3,000円の消費税がかかるので、個人輸入なら1,200円もお得になる計算です。このように、海外から個人で買う方が税金面で優遇されているため、結果として海外通販の商品が格安に感じられるのです。
一見、消費者に優しいこの制度。しかし問題は、国内事業者との競争条件が大きく異なることです。日本の事業者は仕入れや販売時に正規の税負担をしていますが、海外EC経由の個人輸入品は税のハンデが少ないため、その分安価に販売できます。実際、TemuやSHEINが驚くような低価格で商品を提供できる理由の一つがこの税優遇だとされています。国内の小売店やメーカーからすれば、「同じ商品を売っているのにこちらだけ実質的に税金を多く払っていてはかなわない」という不公平な状態です。
さらに、海外ECの利用者急増も見逃せません。ここ数年で海外通販は爆発的に拡大し、2024年度の輸入申告件数は約2億件と、この5年で4倍にも膨れ上がりました。個人がスマホひとつで海外から気軽に買い物できる時代、昔ながらの特例をそのままにしておけば、利用者が増えるほど国内産業への影響が大きくなります。しかも、輸入量が急増すれば税関のチェックが追いつかず偽ブランド品や違法薬物が紛れ込むリスクも高まると指摘されています。事実、大量のスマートフォンを個人使用と偽って輸入し税負担を逃れる不正も発覚しています。本来の目的(お土産程度の個人輸入を助ける)からかけ離れた使われ方が目立ち、制度の矛盾が浮き彫りになっているのです。
諸外国の対策と日本の税制見直しの動き
日本以外の国々は、この問題にどう対応しているのでしょうか。結論から言えば、主要国で日本と同じような税優遇策を残している国はほぼありません。実はこの「個人輸入品の課税価格を割り引く特例」は1980年から日本に存在していました。当時は海外旅行のお土産程度を想定したもので、ネット通販どころかインターネットもない時代ですから、各国とも似たような小口輸入の優遇措置を持っていたのです。しかしインターネットの普及でこの特例の存在意義は薄れ、今や日本以外の主要国は次々と見直しを進めています。
具体的には、欧州連合(EU)やイギリスは2021年に小額輸入品の付加価値税(VAT)免除を廃止しました。これにより、数ユーロ程度の安価な品物でもEU域内に輸入される際はVATがかかるようになりました。さらにアメリカでは今年(2025年)8月に関税の免税措置(デミニミス・ルール)を全面的に撤廃し、800ドル以下でも原則として関税を課すように踏み切りました。この変更により、これまで関税を免れていた低価格商品の多くにも関税がかかる見込みで、結果的にネット通販企業が享受していた税制上のメリットが消え、従来型の大手小売業者と同等の条件で競争する形になるとも言われています。主要国が相次いで動いた背景には、中国発の安価な商品が各国に流入し、自国の産業や市場秩序への悪影響が懸念されたためです。
では日本は何をしようとしているのか。財務省は先述の課税価格4割引き特例を廃止する方向で、2026年度の税制改正大綱に盛り込む調整に入りました。加えて、現在は別途存在する「デミニミス・ルール」(課税価格が1万円以下の輸入品は消費税など非課税とする措置)についても見直す方針です。具体策として浮上しているのが、一定規模以上の海外EC事業者に対し日本での登録義務を課し、消費税を代わりに納税させるという案です。これはEUが導入した「インポートワンストップショップ(IOSS)」に近い仕組みで、海外販売業者があらかじめ税を徴収・納付することで、日本側での徴税漏れを防ぐ狙いがあります。
重要なのは、こうした措置が決して「貿易の鎖国」ではないという点です。海外の商品を締め出すわけではなく、「海外だから税が安い」という不合理を無くし公平な土俵に立って競争してもらおうという発想です。むしろ遅れていた法整備を欧米に合わせてアップデートし、適正な貿易環境を整える動きと言えます。グローバルな流れに日本も足並みを揃え、時代遅れの優遇措置を見直すことで、国内外の企業が公正に競争できる市場を作ろうとしているのです。
国内産業保護と投資家への影響:追い風になる銘柄は?
今回の税制見直しは、国内産業にとってどのような影響を及ぼすでしょうか。まず考えられるのは、国内企業にとっての追い風です。これまで海外EC経由の安価な商品にシェアを奪われがちだった分野(たとえば衣料品や雑貨、電子機器など)で、価格競争力の格差が是正される可能性があります。海外通販品にもきちんと消費税・関税コストが上乗せされれば、純粋な商品力・サービスで勝負しやすくなります。実際、日本経済新聞は「免税なし」になればEC・アパレル株が揺れる(影響を受ける)と伝えており、規制強化の報道が出た段階で市場関係者も敏感に反応しています。不利な競争を強いられていた国内小売事業者にとっては朗報であり、企業業績ひいては株価にプラスに働く可能性があります。
投資家の視点から見ると、国内消費関連企業や小売業、アパレル企業などに注目が集まるかもしれません。たとえば、これまでSHEINの低価格ファッションに押され気味だった国内アパレル企業や、海外通販雑貨に苦戦していた小売チェーンなどは、税負担がフラットになれば巻き返すチャンスです。実店舗を構える小売業者も、「ネット通販だから常に安い」という構図が崩れれば価格競争力を取り戻せるでしょう。
さらに、こうした政策変更は関連ETFや投資信託にも影響を与え得ます。国内消費や小売業に特化した指数・ETFには追い風となりうる一方、海外通販企業と関わりの深い企業(物流や倉庫で特定企業に依存している場合など)は一時的に調整が入る可能性もあります。ただ全体としては、法整備によって市場が健全化することは長期的にプラス材料と考えられます。不公平な競争が是正されれば、国内企業は適正な利益を確保しやすくなり、研究開発やサービス向上に再投資できるからです。中長期的にはそれが産業全体の競争力強化につながり、結果的に投資先としての魅力も高まるでしょう。
もちろん、短期的には「安い海外通販が使いにくくなる」ことで消費者の行動変化も予想されます。しかし、それによって国内経済にお金が循環しやすくなる面も見逃せません。消費者が国内企業の商品を選ぶ機会が増えれば、その売上がまた国内投資や雇用に回るため、日本経済全体の底上げにもつながります。投資家としては、この変化をポジティブに捉え、国内市場の活性化に賭けるという戦略も考えられるでしょう。
安さの落とし穴:消費者が知っておきたいこと
安い海外商品には魅力がありますが、価格だけを理由に飛びつくことのデメリットについても考えてみましょう。今回の税制議論を機に、「安ければ正義!」という考え方を見直す良い機会かもしれません。消費者として賢く行動するために、以下のポイントを押さえておきましょう。
⚫︎ 品質や安全性の問題
極端に安い製品の中には、品質に難があったり安全基準を満たしていないものも紛れています。たとえば電化製品ならPSEマークの有無、化粧品なら成分表示や承認の有無など、本来チェックすべきポイントが曖昧なケースも。税関の目が行き届かないほど膨大な個人輸入では、模倣品や違法な商品が混入するリスクも指摘されています。安さにつられて買ったもののすぐ壊れてしまったり、最悪の場合健康被害が出るようでは本末転倒ですよね。
⚫︎ 倫理・環境面の懸念
超低価格の背後には劣悪な労働環境や環境破壊が潜んでいる可能性も考えましょう。世界的に人気のSHEINは近年、急成長の陰で人権侵害や環境負荷の高いビジネスモデルだと批判を受けています。大量生産・大量廃棄を前提とする“超ファストファッション”は、安さの代償として廃棄物やCO₂排出の問題を引き起こします。消費者が安いからと大量購入・短期間で廃棄を繰り返していては、地球環境にも優しくありません。
⚫︎ 国内経済への影響
安い輸入品ばかりにお金を使うということは、その分国内企業にお金が落ちないことを意味します。私たちが節約できても、国内の生産者や小売店の売上が減れば、その企業で働く人の賃金や雇用にも響きます。安価な海外製品に市場を奪われ倒産に追い込まれた中小企業も実際あります。巡り巡って経済全体が冷え込めば、自分たちの暮らしにも跳ね返ってくるのです。長い目で見れば、多少高くても信頼できる商品を選ぶことが、自分たちの暮らしを守ることにもつながると言えるでしょう。
以上のように、「安いから」と飛びつく前に、その裏側を考えてみることが大切です。もちろん、消費者にとって価格は大事な要素ですが、「安さ」以外の価値にも目を向けてみませんか。品質が良く長持ちするものを選べば結果的に節約になる場合もありますし、倫理的に応援したい企業の商品を買うことは気持ちの良いものです。私たち一人ひとりの選択が市場を作り、ひいては社会や経済の在り方に影響を与えるのです。
日本を元気にする投資へ:公正な市場で未来志向の選択を
最後に、今回のテーマを踏まえて前向きなメッセージをお届けします。日本政府が進める税制の見直しは、古い制度に頼らず公正な競争環境を整える一歩です。これは企業にとっても消費者にとっても健全な市場づくりにつながるでしょう。自由で開かれた貿易を維持しつつ、無意味な優遇措置は無くしていく。そうすることで日本の産業は実力で勝負できる舞台が与えられ、競争力を取り戻していけるはずです。
私たち投資家・消費者も、この流れに前向きに参加したいものです。「安ければ勝ち」ではなく「価値あるものにお金を使う」という意識改革は、日々の買い物からできます。将来性のある国内企業に投資したり、質の高い商品やサービスを選んだりすることも、小さなようでいて日本経済を元気にする力になります。企業が適正な利益を上げ、そこで働く人に適切な還元がされれば、消費も増えてさらに経済が回ります。この好循環こそが健全な成長と言えるでしょう。
安さだけを追い求めて得をしているようでも、その陰で失っているものがないかを考える視点が、これからの時代は求められます。日本も遅ればせながらルールを整え、世界と歩調を合わせて国内市場を守る策を打ち出しました。これは決して後ろ向きな保護主義ではなく、未来に向けた前向きな舵取りです。私たちも賢い消費者・投資家として、健全な市場を育てる選択をしていきたいですね。日本を元気にする投資へ、一歩ずつ前進していきましょう!