はじめに:見えなかった経済が可視化されるとき
2025年8月、日本経済新聞のある記事がアフリカ経済の劇的な変化を報じました。アフリカではこれまで統計に捉えきれなかった露店や日雇い労働など「非公式経済」が経済全体の4割にも及びましたが、モバイルマネー(携帯電話を使った送金・決済)の急拡大によってお金の流れが可視化され始めたのです。統計手法の見直しによってナイジェリアのGDP(国内総生産)は既存データより3割も膨らんだほどで、フィンテックの力が経済の姿を一変させています。
国際労働機関(ILO)によれば、アフリカでは雇用の実に86%が非公式経済に属します。従来は銀行口座を持たない人が多く、公的機関は経済活動の全容を把握できませんでした。しかし携帯電話による送金が普及すれば、必然的に当局は経済活動を把握できるようになります。これは一見すると素晴らしい進歩です。経済の「見えない部分」が見えるようになることで、多くの人々が金融サービスにアクセスできるようになり、新たな機会や成長が生まれるからです。実際、モバイルマネーの広がりは金融包摂(Financial Inclusion)の推進につながり、人々が貯蓄し所得を得て消費する機会を提供していると指摘されています。
しかし、経済の透明化はメリットばかりではありません。その光が当たることで新たに浮かび上がる影もあります。たとえば、今まで当局の目を逃れていた収入にも課税のメスが入るかもしれませんし、個人のプライバシーが損なわれるリスクも指摘されています。アフリカでも最近、政府がモバイル送金に手数料や税を課そうとする動きが広がり、一部では国民の反発を招いています(たとえばガーナでは携帯送金に1.5%の課税が導入され議論になりました)。見えなかったものが見えるようになることには、常に光と影の両面があるのです。
今回は、こうした「経済の見える化」がもたらす光と影を踏まえつつ、日本に話を移しましょう。日本にも実はアフリカに負けずとも劣らない「埋蔵金」、すなわち公式には十分に把握されていないお金や資産が存在すると言われます。それが今後、中央銀行デジタル通貨(CBDC)やステーブルコインの普及によって炙り出されるとしたら……?ちょっとSF的な未来予想にも思えますが、「もしかすると現実になるかもしれない」と警鐘を鳴らすつもりで、日本国内のケースを考えてみたいと思います。
・日本にもある「見えないお金」:タンス預金という埋蔵金 ・デジタル円とステーブルコイン:お金の流れを丸見えにする技術 ・「見える化」の裏に潜むリスク:プライバシーの喪失と課税強化 ・株式と金(GOLD)に残された希望:デジタル時代の資産防衛 ・おわりに:デジタルとアナログのハイブリッド戦略を ・書籍紹介
日本にもある「見えないお金」:タンス預金という埋蔵金
まず、日本における「公式には見えないお金」とは何でしょうか。一つの典型が「タンス預金」と呼ばれるものです。銀行に預けず自宅のタンスや金庫に現金をしまい込んでいるお金のことで、日本銀行の資金循環統計によると、日本の家計が保有する現金は100兆円を超えるともされています。100兆円規模のお金が、銀行などの公式な金融システムの外で眠っている可能性があるわけです。まさに日本経済の中に埋もれた「埋蔵金」と言えるでしょう。
タンス預金をする動機は様々です。たとえば高齢のご家庭では、「万が一銀行が破綻しても現金が手元にあれば安心」という心理や、超低金利で銀行に預けても利息がつかないなら現金でいいといった判断もあるでしょう。また、人によっては「現金で持っていれば税務署に捕捉されにくいだろう」という思惑で相続対策として現金を隠す場合もあります。実際、タンス預金そのものは違法ではありませんが、相続税の申告で現金の存在を隠せば税務調査で発覚し重いペナルティが科されるリスクがある、と専門家も指摘しています。
ここで一つ身近なたとえ話をしましょう。祖父母の家に行くと、タンスの奥や畳の下から大判小判…ではなくへそくりの束が出てきた、なんて話を聞いたことはありませんか?昔ながらのやり方ですが、日本では「自宅にお金を置いておく」文化が一定数存在します。
金融機関を信用していないわけではなくとも、「自分のお金は自分で管理したい」という感覚や、「家に現金があれば何かと便利」という生活実感からでしょう。統計上も、日本は欧米に比べて家計金融資産に占める現金・預金の割合が高い傾向があります(その分、株式などリスク資産の比率が低い)。つまり、多くの家庭が眠らせている現金という名の「埋蔵金」を抱えているのです。
しかし最近、そのタンス預金の山にも少し変化が出てきています。2024年には日本で新紙幣(新しい一万円札など)が発行開始されましたが、これに伴って「古いお札のままでは不便になるかも」と考えた人々がタンス預金を銀行に預け直したり他の資産に換えたりし始めており、タンス預金の総額は減少傾向にあるとされています。旧紙幣がすぐ使えなくなるわけではないものの、新札発行という出来事が隠し持っていた現金を炙り出すきっかけになったわけです。このように、制度や環境の変化によって人々の「隠し財産」が表に出てくることが現実に起きています。
では、もしこれからデジタル通貨(CBDC)や民間のステーブルコインが普及したら、日本の埋蔵金事情はどう変わるでしょうか?タンス預金のような現金資産や、他にも十分に把握されていない個人資産が、もっと大きく可視化される可能性があります。
デジタル円とステーブルコイン:お金の流れを丸見えにする技術
中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは、各国の中央銀行が発行するデジタル版の法定通貨です。日本では「デジタル円」とも呼ばれ、現在、日本銀行が技術的な実証実験を進めています。日銀は2023年春から民間企業と協力したパイロット実験を開始しており、2026年頃までには発行の可否を判断できるとの見解も示されています。注意すべきは、2026年に「発行する」ことが決まるわけではなく、「発行するかどうかを決める」予定だという点です。つまり現時点で確実に導入されると決まったわけではありませんが、数年先にはデジタル円の是非が現実の議題に上る可能性が高いのです。
一方のステーブルコインは、民間が発行する暗号資産(仮想通貨)の一種で、法定通貨と価値を連動(ペッグ)させたデジタル通貨です。たとえば「1コイン=1円」や「1コイン=1ドル」のように価値が安定するよう設計されています。日本では2022年に関連法が改正され、2023年6月から銀行や資金移動業者、信託会社などがステーブルコインを発行できる新しい制度が施行されました。この法整備により、ステーブルコインの利用者保護やマネーロンダリング防止策も強化されています。つまり、法制度が整備され、日本円に連動するデジタル通貨を民間企業が発行できる体制が整いつつあり、近い将来、日常的に使える時代が幕を開けようとしているのです。
では、CBDCやステーブルコインが広がると何が変わるのでしょうか?一言でいえば、お金の動きや個人資産の「透明度」が飛躍的に上がると考えられます。現在でも銀行振込やクレジットカード、電子マネーなどキャッシュレス決済は履歴が残りますが、現金取引については依然として把握は困難です。しかし、もし社会の決済手段が紙の現金からデジタル通貨に置き換わっていけば、基本的に全ての取引履歴がデータとして残ることになります。誰がいつどこでいくら使ったか、といった情報が電子的に蓄積されていくわけです。
専門家は、デジタル通貨の世界では現金のような完全匿名の取引は原理的に難しいと指摘しています。デジタル決済では支払う側と受け取る側それぞれにID(口座番号やアカウント)が紐づき、取引額や日時まで含めてトランザクションが完全に捕捉可能だからです。そのため、CBDCを導入すれば政府や中央銀行が国民一人ひとりの決済を記録・監視できるようになるのでは、と懸念する声も強くあります。
逆に言えば、そうした懸念がある一方で、マネーロンダリング(資金洗浄)や脱税などの不正行為を抑制する効果が大いに期待できるのも事実です。すべての取引が白日の下にさらされるわけですから、「見えないところでコソコソ…」が難しくなるわけですね。税務当局からすれば、「お金の流れが全部データで追えるなんてなんて素晴らしいんだ」と小躍りしたくなる未来かもしれません。
具体的に、日本でCBDCやステーブルコインが広がったとき、どんなシナリオが考えられるでしょうか。
⚫︎1 タンス預金のデジタル化
現金決済が減りデジタル通貨が主流になると、自宅に大量の現金を保管していても使いにくくなるかもしれません。将来的に「現金お断り、デジタルマネーでお願いします」なんて店が増えれば、タンスの奥の1万円札も引っ張り出してデジタル円の口座に入れざるを得ないかもしれません。そうなれば、これまで隠れていた現金が銀行口座やデジタルウォレットに乗ることで一気に可視化されます。
⚫︎2 個人間送金の捕捉
これまでは親族間で現金の受け渡し(いわゆる「贈与」)をしても記録が残りませんでした。しかしデジタルマネーで送金すれば履歴が残ります。たとえば、お孫さんが祖母からお年玉を「デジタル円」で受け取ったら、その事実はデータに残ります。極端な話、税務署が本気を出せばそれを贈与とみなして課税することも技術的には可能になるでしょう(実際にお年玉課税なんてしないでしょうが、それくらい詳細なデータが取れるというたとえです)。
⚫︎3 現金商売の申告漏れ防止
小規模な飲食店やサービス業では、現金売上を意図的に少なく申告して税金を安く…という不正が昔からあります。しかし決済がすべて電子になれば売上をごまかすのは困難です。デジタル決済では一つひとつの販売が記録に残るので、「レジから売上を抜いてポケットマネーに」という古典的手口は通用しなくなります。
以上のように、お金の流れがすべて「見える化」する社会では、良くも悪くも「お天道様の下を歩く商売・生活」へのシフトが起きます。透明性が増すことで健全な取引が促進され、脱税や犯罪収益の隠匿が難しくなるのは社会全体としてはプラス面です。また、マクロ経済的にも「どこにどれだけのお金が滞留しているか」が把握しやすくなるため、政策当局は的確な経済政策を打ちやすくなるでしょう。いわば経済の血流が可視化され、詰まっているところや不足しているところにピンポイントで対処しやすくなるイメージです。
しかし、そうしたメリットの裏返しで我々個々人にとっては注意すべきリスクや不安材料も浮上します。次章では、そのリスク面にフォーカスして考えてみましょう。
「見える化」の裏に潜むリスク:プライバシーの喪失と課税強化
デジタル通貨による経済の見える化がもたらす最大の懸念は、プライバシーの喪失でしょう。私たちがいつ何にお金を使ったかという個々の消費行動は、本来プライベートな情報です。それがすべて記録・監視の対象となる社会は望ましいとは言えません。極端なシナリオを言えば、何時にどのコンビニでおにぎりを買ったか、お酒を月に何本買ったか、といった細かな生活パターンまで追跡可能になるわけです。これは技術的には可能でも、私たちの人権や自由に関わる問題です。
現実にCBDCの設計にあたっては、「どこまで匿名性を確保すべきか」「誰が取引データにアクセスできるようにするか」が重要な論点になっています。日本銀行も「プライバシーに十分配慮した制度設計が必要」として、個人情報を扱う部分と決済部分を分離するなどのモデルを検討しています(たとえば、取引情報と個人の身元情報を分けて管理する仕組みなど)。
プライバシー以外にも、一般の生活者にとって見逃せないリスクがあります。それは「課税強化」の可能性です。お金の流れが丸見えになれば、税務当局はあらゆる所得や資産を正確に把握できるようになります。「それの何が問題なの?正しく税金を払っていれば怖くないでしょ?」と思うかもしれません。確かに、正しく申告している限り後ろ暗いことはありません。
しかし問題は、「これまで課税されていなかったものにまで新たな税負担がかかるようになるかもしれない」という点です。言い換えれば、デジタル通貨は課税当局に新たな武器を与えることになり、それによって将来的に導入されるかもしれない税(これまでなかった種類の税)に警戒が必要だ、ということです。
具体的に考えてみましょう。現在の日本には所得税・消費税・相続税など様々な税金がありますが、「資産税」と呼ばれるものは限定的です。資産税とは、その人が持っている資産そのものに課税するもので、典型例は固定資産税(不動産にかかる税)です。金融資産については、保有そのものには課税されず、それによる所得(利息・配当・売却益など)に課税されています。しかし、仮に将来「金融資産そのものに毎年課税する」といった富裕税・資産課税が導入されたらどうなるでしょうか?
現時点で日本にそのような税はありませんが、世界を見れば富裕層への資産課税の議論は度々出てきます。歴史を遡れば、戦後間もない日本で「財産税」というものが一度だけ実施されたこともあります。これは1946年に行われた大規模な資産課税で、当時10万円を超える財産を持つ個人に最高90%もの税率で課税した非常に苛烈なものでした。結果、日本の大金持ちの財産はことごとく削られたと言われています。さすがに現代でこんな極端な税をいきなり導入する可能性は低いでしょう。しかし、日本政府の財政事情を考えると「富裕層に何らかの負担を求める策」は将来検討されても不思議ではありません。
ここでデジタル通貨です。仮に政府が資産課税を導入しようとしても、タンス預金のように現金で持たれている資産や、海外に移されたお金までは正確に把握するのが難しいため、課税の効果は限定的になってしまいます。しかし、もしCBDCが普及し、人々がこぞってお金をデジタル円の口座に入れていれば?政府は技術的に各個人のデジタル円残高を正確に把握できるようになります。極論を言えば、「年末のデジタル円残高のうち○○万円を超える部分に対し○%の課税」なんてことさえ技術的には容易でしょう。実際には政治的なハードルが高いのでそんなことをすぐに実行できるとは思えません。しかし、デジタル通貨の世界では、「負担付き貯金」のようなことが制度的に可能になってしまうのです。
これは金融の専門用語で言えば、マイナス金利の強制適用や口座残高への課金といった形で議論されることがあります。たとえば「一定額以上をCBDC口座に貯蓄していると自動的に毎月○%残高が減る(=その分が金利として徴収される)」なんて仕組みが理論上は作れてしまうのです。恐ろしいですね。
もっと現実的な線で言えば、税務当局が資産を把握できることで既存の税の徴収が徹底されるでしょう。たとえば相続税・贈与税では、先述のように現金を生前贈与して申告しないとか、亡くなった方の自宅金庫に大金があったが申告から漏らす…といった不正が後を絶ちません。しかしすべての現金がデジタル化されていれば、相続発生時にその人名義のデジタル円残高は筒抜けです。「現金をこっそり隠す」という逃げ道は塞がれることになります。
さらに私たちに密接な話として、NISA(少額投資非課税制度)などの優遇策が将来どうなるかという問題もあります。現在、NISA制度では投資で得た利益が非課税になる枠が設けられ、多くの個人投資家がこれを活用しています。政府も「国民に資産形成を促す」として制度を拡充しました。しかし一部では「将来、本当にずっと非課税のままか?」という不安もささやかれています。というのも、金融所得課税の強化が今まさに議論され始めているからです。
岸田前政権になってから「1億円の壁」(総所得が1億円を超えると所得税負担率が下がる問題)の打破など、富裕層の金融所得への課税強化が話題に上りました。2025年からは超富裕層に対するミニマム課税(最低税負担)も導入されています。厚生労働省は2028年度までに社会保険料の算定に金融所得を反映させる仕組みを検討しています。これは現状、株や投資信託の利益は確定申告しなければ国民健康保険料などに反映されないため不公平だ、という問題意識に基づくものです。つまり、金融所得がある人からはそれ相応に社会保険料も多く負担いただきましょうという動きです。実際にNISAで得た利益も将来は社会保険料や税金の対象になるのではないかとの憶測がSNSで広がり、当局者が「少なくとも今のところNISAを課税対象に含める考えはない」と火消しする場面もあったほどです。
現時点では、NISAの非課税枠は守られていますが、先々どうなるかは断言できません。ゴールドトラスト社の調査ブログも「2025年の金融所得課税強化ではNISAは対象外だったが、将来的に課税対象となる可能性はゼロではない」と指摘しています。要するに、「いつまでも出口(売却時)まで非課税でいられる保証はないから、油断せず今のうちに資産形成を進めておこう」というわけです。
デジタル通貨の話に戻りましょう。仮にすべての資産がデジタルで把握可能になれば、政府・税務当局はいくらでも制度を変更して課税強化を図れる土台ができます。「抜け道がない」状態です。これまでは「捕捉率◯◯%だからここまで課税強化しても税収はこれくらいだろう」と推計していたのが、もし全資産を100%把握できるようになれば「課税強化しても必ず取り切れる(=税収を取り逃がす心配がない)」と判断され、より強気の税制改革が可能になるかもしれません。そうなれば、たとえ今は非課税のNISAだろうと、将来「やっぱり利益に課税します」「一定期間後は出口で課税します」「残高○円以上のNISA口座には課金します」等々、あらゆるシナリオが考えられます(もちろんそれを許すかどうかは政治判断ですが)。
ちょっと脅かしすぎたかもしれませんが、可能性の話として頭の片隅に入れておいて損はないでしょう。デジタル通貨自体は決して「悪いもの」ではなく、むしろ利便性や効率性の面で社会に恩恵をもたらします。しかし同時に、我々の資産が丸裸にされることへの備えも必要だということです。「備えあれば憂いなし」。では私たちは具体的にどう備えれば良いのでしょうか?ヒントは「資産の中身を多様化すること」にあります。
株式と金(GOLD)に残された希望:デジタル時代の資産防衛
経済がどんどんデジタル化していく中で、私たち個人が自分の資産を守り、増やしていくにはどうすればいいでしょうか。キーワードは「実物資産」です。実物資産とは、現物として存在し価値を持つ資産のことで、代表的なものは不動産・貴金属・宝石・芸術品などです。中でも多くの人にとって現実的かつ有望な実物資産が金(GOLD)でしょう。それぞれ、デジタル課税時代においてどんな役割や希望をもたらしてくれるのか考えてみます。
金(GOLD):デジタル監視社会で光る究極の実物資産
金は言わずと知れた歴史ある実物資産で、「有事の金」とも呼ばれます。世界中どこでも通用し、中央銀行も価値の裏付けとして保有する貴金属です。金の最大の特徴は、それ自体が不変の価値を持つ実物であり、誰の負債でもないという点です。株式は企業の業績に左右され、通貨は政府の信用に依存しますが、金は元素記号Au、そのものが普遍的な価値を認められています。古代から人類は金に魅了され、21世紀になってもなおその価値は健在です。
デジタル通貨が発行され、お金の流れがすべて監視可能になったとしても、あなたが自宅の金庫に地金型金貨を保管しているかどうかまでは分かりません。極端に言えば、金庫に入れた金は「見えない資産」のままです。もちろん、金を購入する際には業者との取引記録が残るでしょうから完全な匿名とはいきません。しかし、購入後にどこに保管したか、海外に持ち出したか、子孫に譲ったか、といった細かい動きまでは追跡しにくいのが現実です。つまり金はデジタル監視社会における最後の砦とも言える存在です。
さらに金はインフレに強い資産でもあります。紙幣の価値が下がる局面では相対的に金の値段が上がる傾向があります。実際、日本国内の金価格は近年急騰し、2025年7月には1gあたり17,875円となり、過去最高値を更新しました。コロナ禍、ウクライナ危機、円安、世界的なインフレなどを背景に、安全資産とされる金の需要が高まったためです。
現在も金価格は高水準にあり、この10年で数倍に値上がりしているほどです。もちろん金相場も変動しますが、長期で見れば各国の通貨価値が下落するのに歩調を合わせて金の価格(その通貨建て)は上昇してきました。言い換えれば、金を持っていることで貨幣の価値下落から富を守ることができたわけです。
また、金は「政府に干渉されにくい資産」でもあります。極端なケースとして、1930年代にアメリカで一般市民の金保有が一時禁止されたこともありましたが、現代の民主国家で同様の措置は考えにくいでしょう。日本では少なくとも金の売買・保有は自由であり、仮に富裕税が導入されても金の現物をどれだけ持っているか申告させるのは容易ではありません。よって、「最悪の場合は金を握っておけば生活再建の糧になる」と考える人も一定数います。
とはいえ、現金のような流動性や利息が付かない点は金のデメリットです。「金塊持ってコンビニに行っても買い物できない」わけで、日常の決済手段にはなりません。したがって全資産を金に換えるのは極端すぎますが、ポートフォリオ(資産配分)の一部に金を組み入れることは、デジタル時代の資産防衛策として有効でしょう。それこそ「お守り」代わりに20%~30%程度を金で持っておくイメージです。投資初心者の方でも、純金積立や金ETFなどを使えば少額から金に投資できますし、将来現物引き出しも可能です。
おわりに:デジタルとアナログのハイブリッド戦略を
フィンテックの進歩によって、経済の「見えない部分」を可視化する動きはこれからも加速するでしょう。アフリカで起きているモバイルマネー革命は、その縮図です。日本でもキャッシュレス化が進み、デジタル円や円建てステーブルコインが普及すれば、家計に眠る「埋蔵金」が次第に表舞台に引っ張り出されるかもしれません。これは健全な経済運営や公平な社会のためには歓迎すべき面がありますが、一個人の立場に立てばプライバシーと財産をどう守るかという新たな課題に直面します。
皆さんは、これからの人生で長期的に資産形成をしていくことでしょう。今回お話しした未来像は少し先の話かもしれませんが、備えあれば憂いなしです。まず第一に、制度の変化にアンテナを張りましょう。税制改正やデジタル通貨の動向について、「知らないうちに損をしていた」ということがないよう情報収集が大切です。
第二に、資産を偏りなく持つことを心がけましょう。現金だけ、預金だけに頼るのではなく、株式や投資信託、不動産、そして金などの実物資産もバランスよく取り入れることです。デジタルとアナログのハイブリッド戦略と言ってもいいかもしれません。特に若いうちはNISA等も活用しつつ株式など成長資産で増やし、中長期的なインフレや課税強化に備えておく。そして万一の保険として金のような資産も持っておく。こうした分散投資の考え方が、これからの時代ますます重要になるでしょう。
最後に強調したいのは、デジタルの進化自体を恐れすぎる必要はないということです。確かにデジタル通貨は諸刃の剣ですが、それによって便利になること、豊かになることも多々あります。大事なのはメリットを享受しつつデメリットに備える知恵です。どうか「知らなかった…」で損をすることなく、この変化の時代を上手に乗り切ってください。私たち一人ひとりが賢く立ち回れば、たとえ「埋蔵金」が炙り出される未来が来ても怖くありません。見えるものと見えざるものを味方につけて、あなたの大切な資産を守り育てていきましょう。ぜひ参考にしてください。