皆さんは「日本は資源が乏しい国」と聞いたことがあるかもしれません。でも実は、日本の近海の深い海底にはレアアース(希土類)や金(GOLD)を含む泥が大量に眠っているのです。まるで深海に沈んだ宝箱のようですが、鍵(=採算や技術)が合わないと開けられない宝箱でもあります。本記事では、この“泥の資源”に焦点を当て、もし採算が取れるようになれば日本が資源大国になり得る可能性について一緒に見ていきましょう。
・南鳥島の海底に眠るレアアース泥 – 世界トップクラスの埋蔵量 ・深海から泥を吸い上げる!日本の技術者たちの挑戦 ・金も同じ?価格と技術で“埋蔵量”が増える不思議 ・資源と価格の微妙な関係:供給が増えても価格は下がらない? ・夢のある「泥の資源」、日本の未来への希望 ・書籍紹介
南鳥島の海底に眠るレアアース泥 – 世界トップクラスの埋蔵量
東京都の南東約1,900kmに位置する南鳥島(みなみとりしま)周辺の海底に、莫大な量の「レアアース泥」が存在することが明らかになりました。レアアースとはハイブリッド車のモーターやスマートフォン、風力発電機、LEDといったハイテク製品に不可欠な金属元素です。中国が世界生産の約7割を占める戦略物資でもあり、日本はその多くを輸入に頼っています。
ところが2010年代初め、日本の研究チームが南鳥島沖の水深約5,600mの深海底からレアアースを豊富に含む泥を発見しました。その埋蔵量は推定約1,600万トンにも達し、これは世界全体の需要の数百年分に相当するといいます。桁外れの量ですよね!仮にこの推定が正しければ、日本のレアアース埋蔵量は一躍世界でもトップ3に入る規模となります(つまり“レアアース資源大国”の仲間入りです)。
しかも、このレアアース泥には特に価値の高い中・重希土類(重いレアアース元素)が豊富に含まれています。中・重希土類とは、磁石の性能を高めるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などで、中国南部に偏在し中国政府が輸出規制の対象にもしているレアアースです。南鳥島の泥にはそれらが多く含まれると証明されており、これはハイブリッド車・電気自動車のモーターや最先端兵器にも欠かせない資源を日本自身が抱えている可能性を示します。言わば、中国頼みだった資源を「日の丸レアアース」でまかなえるかもしれない、そんな夢のような話が現実味を帯びてきたのです。
深海から泥を吸い上げる!日本の技術者たちの挑戦
しかし、宝の持ち腐れにしないためには深海底からその泥を採ってくる技術と採算(ビジネスとして利益が出ること)が必要です。水深5,600mといえば富士山(約3,776m)の1.5倍以上の深さで、そこから泥を引き上げるのは前代未聞の挑戦です。たとえるなら「プールの底に沈んだお宝を、ものすごーく長いストローで吸い上げる」ようなもの。技術者の皆さんはまさにそのストロー(揚泥管(ようでいかん)と呼びます)を繋いで、泥を吸い上げる実験に挑んでいます。
泥を引き揚げるには「エアリフト」というユニークな技術が用いられます。パイプの下の方に圧縮空気を送り込んで泥水と空気を混ぜ、ぶくぶく泡立つ原理で浮力を生み出し、泥を上へ上へと押し出すのです。この方法ならポンプで無理に吸い上げなくても、泡の力で泥をすくい上げることができます。実際に2022年にはハワイ沖水深4,300mでエアリフトを使った試験が行われ、約3,000トンものマンガン団塊を引き揚げることに成功しています。南鳥島では泥の粘り気が高く、深さもさらに深い5,000~6,000m級ですが、日本の技術者たちは世界で誰も成し遂げていない深度での連続揚泥に挑もうとしているのです。
国もこのプロジェクトを後押ししています。政府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、深海資源の採泥・揚泥技術開発が進められており、令和7年度(2025年度)には南鳥島沖水深6,000mで揚泥管を実際に繋いで泥を吸い上げる試験が計画されています。また、東京大学を中心に産学官コンソーシアムが組まれ、経済性の評価も行われています。その最新の試算では採算が十分合う可能性が示されたとも報告されました。さらに、日本政府は2021年にレアアース泥を鉱業権の対象に加える法改正も行い(従来、油田や鉱脈と違い海底泥は法律の想定外でした)、本格開発に向けた法整備も進めています。
とはいえ実用化までのハードルは決して低くありません。南鳥島は本土から遠く離れた絶海の孤島で、天候や海況が厳しい中での作業となります。また、泥からレアアースを取り出すには船上や陸上での選鉱・精錬プロセスも必要です。それでも、「もし深海からあの泥を採れるようになったら…」という期待は大きいですよね。日本の技術者たちはまさにその期待を背負い、日夜研究開発に励んでいます。私たちも「頑張れ、日本の技術者たち!」とエールを送りたいところです。
金も同じ?価格と技術で“埋蔵量”が増える不思議
ところで、資源と採算性の話題でもう一つ興味深い例が金(GOLD)です。金は言わずと知れた貴金属ですが、その「統計上の埋蔵量」(あとどれくらい掘れるかの推定量)も実は価格や技術によって増減する性質があります。
例えば世界の金の埋蔵量は約5万トンと推定されます。しかし毎年約3,000トン前後の金が採掘されており、このペースで行けばあと16年ほどで現在確認されている埋蔵金は掘り尽くしてしまう計算になります。16年と聞くと、「え!?金は2030年代で無くなるの?」と驚くかもしれません。でもご安心を。これはあくまで“今の価格と技術で採算が合う分”に限った話なのです。
金の鉱山には、現在の金価格では採算が取れず「埋蔵量」とカウントされていない低品位の鉱石や、技術的に掘削が難しい場所にある鉱脈がたくさんあります。ですが、金の価格が上がればそれらも収益が見込める「新たな埋蔵量」に変身しますし、採掘技術が進歩すれば今まで手が出せなかった深い鉱脈や海底下、果ては海水中からだって金を取り出せる可能性が出てきます。実際、海水には微量ながら金が溶け込んでいて、地球上の全海水から理論上抽出できる金はなんと約50億トンにもなると試算されています(もちろん現状の技術と費用では海水から金を採るのは全く採算に合いませんが、将来画期的な技術が生まれれば…夢がありますよね)。つまり金という資源は価格と技術次第で「あと◯年で枯渇」は大きく変わり得るのです。現にこの「あと16年で枯渇」という数字自体、過去何十年も言われ続けながら、その都度新しい鉱山発見や価格上昇によって先延ばしになってきました。
さらに金はリサイクル可能な金属でもあり、実は毎年の金供給の約1/3は都市鉱山(使わなくなった電子機器などからの回収)で賄われています。皆さんの手元のスマートフォンにも微量の金が使われていますが、そうした電子スクラップから金を取り出す技術も進んでおり、「掘る」以外の供給源もあるのです。これも広い意味では“技術で埋蔵量が増える”一例ですね。
資源と価格の微妙な関係:供給が増えても価格は下がらない?
最後に、「供給量と価格」の関係について少し触れておきましょう。経済の教科書的には「ある資源の供給が増えれば、需給バランスが緩み価格は下がる」ものです。しかし現実のマーケットは必ずしも単純ではないのです。
例えばレアアースの場合を考えてみましょう。仮に南鳥島のレアアース泥が商業化され、日本がレアアースを大量に供給できるようになったとします。供給増加で一時的に価格が下がる可能性はありますが、その一方で電気自動車や再生エネルギー産業の発展によってレアアースの需要は今後爆発的に伸びると予想されています。ある試算では2030年までに希土類(レアアース)の需要が現在の2~3倍に増えるとも言われます。需要がそれ以上に増えれば、供給を増やしても追いつかず価格がむしろ上昇に転じることも十分あり得るのです。
金についても同様です。金は景気が悪い時や地政学リスクが高まった時に「安全資産」としての需要が高まりやすい傾向があります。中央銀行が備蓄目的で金を買い増すこともありますし、投資マネーが金に流入することもあります。そのため、たとえ鉱山からの産出量が増えても、それ以上に投資需要が強ければ価格は下がるどころか上がることもあります。現にここ数年、各国の中央銀行が記録的なペースで金を購入していることが報じられており、金価格は高値圏で推移しています(2020年代前半現在)。要するに、資源価格は「供給量」だけでなく「需要動向」や「市場心理」によっても大きく左右されるのです。
逆に言えば、需要がある限り資源開発の意義は失われないということでもあります。南鳥島のレアアースにしても、「せっかく掘れるようになった頃には世の中に余って値崩れしていた」なんて事態は考えにくいでしょう。なぜなら電気自動車や風力発電などクリーンエネルギーシフトが進む世界では、レアアースへの需要が旺盛で価格も長期的には上昇基調と予測されているからです。もし日本がレアアースの新たな供給国になれれば、価格暴落を心配するよりもむしろ戦略物資を自前で確保できる強みのほうが大きいでしょう。金の場合も、価格が高止まりしている局面では採算の合う鉱山プロジェクトが増えますし、国際情勢次第ではさらに価格高騰だってあり得ます。結局のところ、「資源がある→供給増→すぐ値下がり」と単純にはいかないのが現実なのです。
夢のある「泥の資源」、日本の未来への希望
海底の泥に眠るレアアースや金のお話、いかがだったでしょうか。資源は埋まっているだけでは宝の持ち腐れですが、価格の後押しや技術の革新が加わると、一転して国の未来を左右する「宝」に化ける可能性があります。南鳥島のレアアース泥はまさにその象徴と言えるでしょう。深海から泥を吸い上げるなんて一見途方もない挑戦ですが、日本の技術者たちは着実にそのハードルを乗り越えつつあります。もし採掘が現実になれば、日本は「レアアース資源大国」として資源外交上の発言力も増し、ハイテク産業の安定にも寄与できるかもしれません。さらに、この物語は「資源は有限だが、人間の創意工夫で可能性は無限に広がる」ことも教えてくれます。技術って本当にすごいですよね。
そして金の例からは、「埋蔵量○年分」という数字に一喜一憂する必要はないことが分かります。価格が上がればもっと採れるし、新技術が生まれれば今は眠っている資源が動き出すのです。極端に言えば、地球上の資源が明日にも尽きるかどうかは、人間次第とも言えるでしょう。そう考えると、日本にもまだまだ潜在力があると思えてきませんか?南鳥島の泥に希望を感じつつ、日本の未来に明るい展望を抱いて、本記事を締めくくりたいと思います。