関税合意後も視界不良。今は様子見。
先週、米国の株価指数S&P500が週間で2.6%下落し、日経平均株価も6週ぶりに下落に転じました。相互関税ショックから急回復してきた日米の株式市場ですが、その上値は重くなっています。背景には、関税を巡る不確実性が依然残っていることや、米国の景気後退リスクが消えていないこと、さらには米国の財政悪化に対する懸念が挙げられます。
現在の株価上昇が本格的な強気相場入りなのか、それともベアマーケットラリー(下落相場の一時的な戻り)に過ぎないのか、市場は判断に迷う局面にあります。実際、S&P500指数は4月上旬の安値から28営業日で約20%も急騰し、戦後の米国市場でも極めて異例のペースで上昇しました。過去にこれほどの急回復が起きたのは、いずれも米国が景気後退局面にあった1982年、2009年、2020年の3回のみです。今回の上昇も一時的なベアマーケットラリーではないかとの見方が出るゆえんです。こうした状況下で、投資初心者の方も含め皆さんに特に注意していただきたいポイントを、以下4つに分けて解説します。(少し専門的な内容も含みますが、できるだけかみ砕いてお伝えしますのでご安心ください。)
・1. 関税戦争「終結」も残るリスク ・2. 6月は交渉の山場、市場は神経質に ・3. 本格回復は7月以降?それまでは様子見が賢明 ・4. トランプ政策リスクと米財政不安は金価格の追い風 ・不安定なときこそ光る「金」投資の魅力 ・書籍紹介
1. 関税戦争「終結」も残るリスク
2025年4月には米中を中心に「関税戦争終結の合意」が発表され、市場には安堵感が広がりました。実際、トランプ米大統領が相互関税に90日間の猶予措置(いわば一時停戦)を設けたことで、それをきっかけに株式市場は急速に回復しました。また5月中旬には米中両国が関税の大幅引き下げで合意し、この報せが伝わると株価はさらに上昇しています。関税を巡る投資家心理の好転が相場を押し上げてきたのです。
しかし、だからといってすべての貿易摩擦リスクが消え去ったわけではありません。現時点でもトランプ前政権時代から続く中国や同盟国への高関税措置、いわゆる「トランプ関税」の影響は完全には解消されておらず、企業業績への重しとなっています。さらにトランプ大統領は足元でも強硬姿勢を崩していません。例えば5月23日、欧州連合(EU)が貿易交渉で譲歩しなければ「6月1日から50%の関税を課すべきだ」と表明し、米アップルに対しても「iPhoneを米国内で生産しないと少なくとも25%の関税を払うことになる」と圧力をかけました。この発言を受け、市場はさっそく反応しました。S&P500は同日0.7%下落し、夜間取引の大阪日経平均先物も日中の清算値比で1%安まで急落しています。貿易問題は依然としてくすぶっており、米国株には引き続き注意が必要です。
2. 6月は交渉の山場、市場は神経質に
米中合意に続き、他の国々との最終交渉も6月に大きな山場を迎える見通しです。上述のようにEUに対する猶予期限が6月1日に迫るほか、米国は同盟国とも関税協議を進めており、この時期に一巡する可能性があります。市場参加者は各交渉の行方に神経を尖らせており、この期間中は相場が日々のニュースに過敏に反応する局面が続くでしょう。事実、関税を巡るトランプ大統領の一言が直ちに株価に響く状況です。投資家としては6月中のマーケットの変動には十分注意し、一本調子の楽観は禁物といえます。
加えて、米国の財政状況にも目を光らせる必要があります。トランプ政権は減税策など積極的な経済政策を打ち出していますが、その副作用として財政赤字の拡大や国債発行増加への懸念が意識されています。5月には米国20年債の入札が低調に終わり、米国資産には「財政リスクプレミアム」が乗り始めているとの指摘もありました。つまり、アメリカの財政悪化や国債増発への不安から、株式などリスク資産が敬遠される動きが出始めているということです。このように金融市場は6月にかけて政治・政策要因に揺さぶられやすく、私たち投資家も最新の動向に注意深くアンテナを張っておく必要があります。
3. 本格回復は7月以降?それまでは様子見が賢明
以上のように、6月いっぱいは不透明要因が多く、市場も神経質になりがちです。では、いつになればスッキリ晴れ間が見えてくるのでしょうか。ひとつの区切りとなりそうなのが7月以降です。各種交渉が6月で一段落し、市場参加者の不安心理が落ち着くには、やはりそれ以降のタイミングが考えられます。仮に関税問題が解消し、米国経済が景気後退に陥らなければ、株式市場は比較的早期に回復軌道に戻る可能性があります。実際、過去のケースでも景気後退が避けられた場合、株価はおよそ30営業日ほどで直前の水準を取り戻しています。
しかし一方で、景気後退が現実となれば話は別です。米国企業の業績は一部で悪化の兆しが見られ、仮に米経済が本格的な後退局面に陥れば、株価は再び大きく下落する恐れがあります。野村証券の分析によれば、もし米国が景気後退入りすればS&P500指数は直近の高値から1年経っても元の水準を回復できず、逆に22%もの下落もあり得るとのことです。日本株もその影響を受け、日経平均が3万4000円台まで下押しするシナリオも指摘されています。楽観的な見方としては、日本企業の株主還元強化が相場を下支えするため「4月の安値を下回る事態は想定しにくい」という声もあります。しかし油断は禁物です。こうしたリスクシナリオが現実とならないか見極めるには時間が必要です。少なくとも今は焦って楽観論に飛び乗るより、7月頃まで様子を見る「守り」の姿勢で臨む方が賢明でしょう。企業業績や経済指標の動向を注視しつつ、防御力を高めたポートフォリオで初夏の相場を乗り切る戦略です。
4. トランプ政策リスクと米財政不安は金価格の追い風
トランプ政権の政策の先行きや米国の財政・ドルに対する信認不安は、実は金(GOLD)の価格にとって追い風となりやすい材料です。足元でも、米国の巨額な貿易赤字・財政赤字を背景に世界的なドル離れの傾向が見られ、これが金価格を押し上げる一因となっています。さらに貿易摩擦への懸念や世界的な政治リスクが高まる局面では、投資家がリスク回避のため「有事の金」に資金を移す動きが強まります。実際、金相場は2025年に入ってから上昇基調を強め、4月には1オンス(31.1g)あたり3,500ドルという史上最高値を更新しました。米国発の金融不安(例えば国債格下げや債務問題など)が意識されると、相対的に安全とみなされる金への需要が一段と高まりやすくなります。つまり、米国株やドル資産の先行きに心配があるとき、その避難先として金が脚光を浴びる傾向があるのです。実際、2008年のリーマン・ショック後や2020年のコロナ・ショックの際にも、不安心理の高まりから金価格が大きく上昇しました。
UBSなどの機関投資家も「メインシナリオは株高だが、関税や米財政の不確実性は残る。警戒は解けない」と述べています。まさに不確実性が残る局面では、私たち個人投資家も防御を意識し、リスクに備えることが重要でしょう。金は伝統的に「有事の安全資産」として知られ、その値動きは株式やドルと逆相関を示すことも多いです。トランプ政権の先行きや米国財政への不安が完全に払拭されない限り、金価格には上昇圧力がかかりやすい環境が続くかもしれません。
不安定なときこそ光る「金」投資の魅力
金価格は2025年前半にかけて上昇基調が続き、4月には過去最高値を更新しました。このように、世界経済や金融市場に不安材料が多いとき、金という資産の持つ安心感が改めて注目されています。初心者の方の中には「金は古い資産では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、金は古くから価値の保存手段として信頼され、現代の金融システムにおいても立派なポートフォリオの一部となり得る存在です。
先行きの読みにくい相場では、無理にリスクを取って大きなリターンを狙うより、資産の一部を安定的な資産に振り向けて守りを固める戦略が有効です。株式やドルに下振れリスクが感じられる局面では、そのヘッジ(保険)として金を保有する意義が増してきます。さらに、各国の中央銀行も外貨準備において金の保有を増やす動きを強めており、この旺盛な需要も金価格を下支えする要因となっています。実際、今回お話ししたとおり関税問題や米国経済の不透明感が漂う中で、金価格はしっかりと値上がりしてきました。金の値動きは常に一定ではありませんが、長い目で見れば世界経済の混乱期において資産を守る「頼みの綱」になってくれる可能性があります。
もちろん、金への投資比率は各人のリスク許容度や資産状況によって適切な範囲で検討すべきです。ただ、株式一辺倒では不安だという方は、選択肢の一つとして金をポートフォリオに加えてみる価値はあるでしょう。これは、資産を複数の資産クラスに分散させてリスクを抑える『分散投資』の考え方にも合致します。なお、金地金そのものを保有しなくても、金ETF(上場投資信託)や純金積立といった形で手軽に金に投資する方法もあります。
市場の視界が晴れない今だからこそ、「備えあれば憂いなし」の精神で金の持つ安心感に目を向けてみてはいかがでしょうか。本格的な相場回復が見込まれるまでの間、金という心強いパートナーとともに、大切な資産を守り抜いていきましょう。
