2026/03/31

見えすぎる資産時代に、なぜ富裕層は金を持つのか

最近、「給付付き税額控除」「ステーブルコイン」「CBDC」といった言葉を目にする機会が増えました。
少し難しく感じるかもしれませんが、この3つに共通しているものは案外シンプルです。

それは、お金や資産が、これまで以上に“見えやすくなる方向”へ進んでいるということ。

ここで誤解してほしくないのですが、これは何か特別に怖い話をしたいわけではありません。社会の仕組みとして、給付が必要な人に届けるには、所得や資産の状況をある程度きちんと把握する必要があります。デジタル決済が広がれば、決済の安全性や利便性を高めるために、制度やルールも整っていきます。流れとしては自然です。

ただ、資産を持つ側から見ると、話は少し変わります。
便利になるほど、資産は同じ仕組みの中に集約されやすくなります。
見えるようになるほど、その分、制度変更の影響も受けやすくなります。

だからこそ富裕層は、株や債券や預金だけに資産を集中させません。
その一部を、金(GOLD)のような実物資産に振り分けるのです。



「見えすぎる資産時代」は、もう静かに始まっている

まず、給付付き税額控除です。

これは簡単にいえば、税額控除だけで足りない分を、給付という形で支える仕組みです。日本では2011年の社会保障・税一体改革成案、2012年の税制抜本改革法を通じて、番号制度を前提とした給付付き税額控除の検討が位置づけられてきました。さらに2026年2月には第1回の社会保障国民会議が開かれ、3月には給付付き税額控除等に関する実務者会議が複数回開催されています。こちらの資料でも、導入当初の対象を所得把握が比較的しやすい給与所得者から考えるロードマップも示されています。参考にしてください。

刺激の強い言い方をすれば「資産監視網が広がる時代」です。
でも、制度の言葉に直せば、「所得と資産の見える化を前提にした再分配設計が進む時代」と言った方が正確でしょう。

大切なのは、感情的にならないこと。

こうした流れは、行政の都合から見ればかなり自然です。だからこそ、いったん始まると簡単には逆戻りしません。富裕層が見ているのは、まさにそこです。いま儲かるかどうかよりも、5年後、10年後に自分の資産がどれだけ同じ仕組みに依存しているかを見ています。


便利なお金ほど、記録とルールに近づく

次にステーブルコインです。

ステーブルコインは、法定通貨の価値と連動する、いわゆる民間のデジタルマネーです。日本では2023年6月1日から関連する新制度が始まり、金融庁は2025年6月の制度改正により、暗号資産・電子決済手段の仲介業の創設や、信託型ステーブルコインの裏付け資産について、発行額の50%を上限に国債や定期預金での運用を認める見直しを整理しています。金融庁資料では、主要ステーブルコインの時価総額がおよそ2,500億ドル規模と紹介されており、これはもう小さな実験ではありません。

ここで一つ整理しておきたいのは、ステーブルコインとCBDCは同じものではない、という点。

ステーブルコインは民間の仕組みです。一方のCBDCは、中央銀行デジタル通貨。つまり中央銀行のお金ですので注意しましょう。

日本銀行は、現時点でCBDCを発行する計画はないと明言しています。そのうえで、2023年からパイロット実験を進め、2025年公表の進捗資料では、仲介機関システムを「顧客管理システム」と「台帳管理システム」に分け、ユーザー情報・取引情報と、決済に必要な情報を分離する設計を示しました。さらに日銀は、経済・社会のデジタル化が進む以上、決済システムについても現状維持という判断はあり得ず、安全性と効率性を高める取り組みを続ける必要があると説明しています。つまり、明日からいきなりCBDCになるという話ではありませんが、お金や決済のインフラが、よりデジタル化され、制度設計の対象になっていく方向にあること自体は確かです。

この流れの中で、富裕層が考えることはとても現実的です。
便利なお金は必要。けれど、便利さだけで資産の全てを組み立てていいのか。
そこに、金という選択肢が戻ってきます。


富裕層は「儲かるから」だけで金を持つのではない

金価格のニュースを見ると、「高い」「もっと上がる」「もう遅い」といった言葉ばかりが目立ちます。
でも、富裕層が金を見るときの視点は、少し違います。

彼らが見ているのは、値上がり率だけではありません。
もっと大事なのは、「その資産は、誰かの仕組みにどれだけ依存しているか」です。

預金には銀行があります。
証券には証券会社があります。
デジタルマネーには運営主体やルールがあります。
もちろん、それが悪いわけではありません。日常生活には欠かせませんし、事業を回すうえでも必要です。

ただ、資産のすべてをそこに寄せてしまうと、便利さは上がっても、資産の自由度は低くなります。
たとえば、家の食材を全部ひとつの冷蔵庫に入れていたら、普段はとても楽です。でも、停電したときには一気に困ります。資産もそれと少し似ています。ひとつの通貨、ひとつの口座、ひとつの制度に集めるほど、日常の管理は楽になりますが、何かが変わったときの選択肢は減っていきます。

その点、金は性質がかなり違います。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は、金を「流動性が高く、誰かの負債ではなく、信用リスクを持たない資産」と説明しています。少し専門的に聞こえますが、言い換えれば、「誰かの返済約束に乗りすぎない資産」ということです。だから富裕層は、金を日常決済の道具としてではなく、資産全体の自由度を残すための保険として持ちます。

しかも、これは一部の個人が不安になって飛びついているだけの話ではありません。WGCによると、2025年の金の総需要は店頭取引を含めて初めて5,000トンを超え、年間では53回もの過去最高値更新がありました。それでも金ETFの保有は801トン増え、バー・コイン需要は12年ぶりの高水準、中央銀行の買いは863トンと、なお歴史的に高い水準を保っています。価格が高いから見送られたのではなく、高い中でも選ばれ続けたのです。ここに、金が単なる“一時的な市場心理に左右される資産”ではなく、制度変更や市場変動に強い保険資産として見られている現実があります。


金の役割を間違えないことが、いちばん大切

ここで、ひとつ大事なことをお伝えしましょう。

金は万能ではありません。

金には配当がありません。

株のように、事業成長の果実を直接生む資産でもありません。

短期では値動きが重く感じる時期もありますし、現物なら保管の考え方も必要です。けれど、その弱点は裏を返せば、「誰かが利払いする約束」や「誰かが返済する前提」に乗っていないことの裏返しでもあります。だから金は、増やす資産というより、偏りすぎた資産構成をやわらげるために使う方が本質に合っています。WGCも、金を株や債券の代わりというより、分散されたポートフォリオの補完資産と位置づけています。

富裕層が上手なのは、ここを混同しないことです。

  1. 毎日使うお金。
  2. 増やすためのお金。
  3. そして、購買力や選択肢を守るためのお金。


この3つを、きちんと分けて考えています。

特に経営者の方は、この視点を会社のお金にも当てはめると、見え方が変わります。待機資金、納税準備、退職金原資、次の投資資金。これらをすべて同じ通貨、同じ仕組みの中だけで持つと、管理はしやすくても、リスクの分散にはなりません。つまり、便利さは高いが、逃げ道は少ない状態になります。金は、その穴を埋めるためのものです。会社のお金を全部金にする必要はまったくありませんが、事業を回す資金と、事業が揺れたときに持ちこたえるための資金は、役割を分けて考えたいところです。

では、どう持つのがいいのか。
ここも実はシンプルです。

すぐ売買しやすいものと、簡単には動かさないものを分けることです。売買のしやすさを重視するならETFや金価格連動商品、システム依存を下げる役割を重視するなら現物の地金や地金型金貨、というように考えると整理しやすくなります。大切なのは、商品名ではなく役割で選ぶことです。値上がりを狙う金なのか、数年単位で置いておく金なのか、それとも家族や会社のバランスシートを守るための金なのか。ここが曖昧なままだと、どんな方法でも迷いやすくなります。

そして、ここは誤解のないように言い切っておきたいのですが、富裕層が金を持つのは、税金から逃げるためでも、社会から離れるためでもありません。

むしろ逆です。

制度の中で暮らし、制度の恩恵も受けながら、資産の一部だけは制度変更に振り回されにくい形で持っておく。

その“バランス感覚”こそが、金保有の本質です。


まとめ

これからの時代、お金はもっと便利になります。給付付き税額控除の議論は、所得や資産の把握を前提に進みやすくなります。ステーブルコインやCBDCをめぐる制度整備は、決済をさらにデジタル化していくでしょう。これは社会全体にとって必要な面もありますし、全部を否定する話ではありません。ただ、便利さが増えるほど、全部を同じ仕組みの中に置くリスクも大きくなります。

だから富裕層は金を持つのです。

儲け話としてではなく、見えすぎる時代に、持っておく意味が消えにくい資産として。

金(GOLD)の価値は、派手なときよりも、こういう時代にこそ静かに効いてきます。


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