はじめに
3月末に掲載した「1オンス(31.1g)が年末までには3,500米ドル突破か」という記事を覚えている方も多いでしょう。私はその記事の中で、金価格が当時の3,000ドル台からさらに上昇する可能性を指摘しました。しかし2025年10月現在、金価格はあっさり4,000ドルを超え、アナリストたちの予想を軽く乗り越えています。この驚異的なパフォーマンスは、単に「金ブーム」では片付けられません。本記事では、金価格上昇の背景や各金融機関の予測が外れた理由を探りながら、投資初心者~中級者が今後取るべきスタンスについて考えます。
・金価格の記録的な上昇 ・主要金融機関の予測はなぜ外れたのか ・世界情勢と政策リスク — トランプ政権再登場への不安 ・中央銀行による金争奪戦 ・ジュエリー需要の低迷と投資需要の拡大 ・今後の価格展望とアナリストの見方 ・投資家へのアドバイス — 高値だからこそ乗るべき波 ・まとめ ・書籍紹介
金価格の記録的な上昇
2025年10月初旬、ニューヨーク金先物価格は史上初めて4,000ドルを突破しました。政府機関閉鎖や政策不透明感が続く米国で、安全資産としての金への需要が急増したことが直接的な要因です。ニューヨーク先物は一時4,050ドル前後に達し、スポット価格も4,000ドル前後に上昇しました。金は利息を生まない資産であるにもかかわらず、この局面では米国の利下げ観測やドル安が追い風となり、年初から約50%超も値上がりしているのです。
注目すべきは、こうした上昇が単なる一時的な投機ではなく、複数の要因が重なった構造的な動きであることです。政府閉鎖による経済指標の発表遅延、フランスや日本の政治的混乱、米中・米欧の関税合戦といった地政学的リスクが重なり、投資家はポートフォリオの安全性を高めるため金を保有する流れを強めています。さらに、後述する中央銀行の旺盛な買いが需給を引き締め、金の価格を押し上げています。
主要金融機関の予測はなぜ外れたのか
年初の段階で多くの大手金融機関は、金価格の年内予想を3,000~3,200ドル程度に引き上げるに留めていました。たとえばスイスのUBSは、米国の政策リスクや貿易摩擦の激化を踏まえて年末の金価格を3,200ドルに見通し、ゴールドマン・サックスは3,100ドルを基本ラインとしつつ、関税強化などで3,300ドルの可能性もあると述べていました。豪マッコーリー銀行はやや強気で「財政赤字の改善が進まなければ3,500ドルを試す」と言及。しかし実際には年末を待たずに4,000ドルを突破し、これらの予測は全て上方に外れています。
背景には、当初想定されていた以上に深刻な世界情勢の不安があります。トランプ大統領は就任直後から鉄鋼やアルミ製品に一律25%の追加関税を課すなど攻撃的な通商政策を展開し、米国と主要貿易相手国の関係を緊張させました。この政策リスクは米国内の景気にも影響を及ぼし、「米国債やドルの保有だけでは安全を確保できない」と考える投資家が金に資金を振り向ける要因となりました。また、イスラエル・パレスチナ情勢やロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクが増幅し、金への逃避需要を一段と高めています。
世界情勢と政策リスク — トランプ政権再登場への不安
金価格上昇の背景として、米国政治が大きな役割を果たしています。2025年にはトランプ大統領が再任され、歴史的な政策転換が続いています。前述のように関税政策に加え、連邦政府の一部閉鎖が長期化しており、経済指標の発表が遅れることで市場参加者は先行きの読みづらさを増しています。さらに、トランプ氏は米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性に疑問を投げかける発言を繰り返し、金融政策の先行き不透明感が高まっています。こうした政治リスクは世界の投資家に「保険」としての金を買わせる強力な要因となっています。
中央銀行による金争奪戦
金市場のもう一つの特徴は、各国中央銀行の積極的な買いです。国際調査会社メタルズ・フォーカスによると、中央銀行の年間純購入量は2022年以降1,000トンを超える水準で推移しており、2025年も900トン規模の買いが続くと予想されています。ロシアの外貨準備凍結を受け、ドル依存からの脱却を目指す新興国がドル以外の資産として金を積み増しているからです。J.P.モルガンのリサーチも、金需要の主な牽引役として中央銀行と投資家を挙げ、2025年は四半期あたり710トン程度の需要が続くと分析しています。
ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格を4,900ドルと予想し、その根拠として西側ETFへの資金流入と中央銀行の買いを挙げています。同社は中央銀行の買いが2025年平均80トン、2026年70トンと見込み、金の需要構造が長期的に支えられると指摘しています。一方、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は公式データで中央銀行が世界の金需要全体の約23%を占めていると試算し、2010年代の平均から倍増していると述べています。
ジュエリー需要の低迷と投資需要の拡大
高値が続くことでジュエリー需要は落ち込んでいます。ワールド・ゴールド・カウンシルによれば、2025年第二四半期のジュエリー用金需要は前年同期比14%減の341トンにとどまり、パンデミック直後の水準まで縮小しました。中国やインドといった主要市場で高値が敬遠されているためです。しかし投資需要は堅調で、金地金バーへの投資は10%増加し、コイン需要は縮小したものの総投資需要は増加。金ETFも2025年1~6月に397トンの純流入を記録し、2020年以降最大の上半期流入となっています。このように需要の重心がジュエリーから投資・中央銀行に移っていることが金価格を下支えしています。
今後の価格展望とアナリストの見方
J.P.モルガンは、2025年4月のリサーチで、金価格が2025年第四四半期に平均3,675ドル、2026年第二四半期には4,000ドルに達すると予想していました。同社のナターシャ・カネバ氏は、トランプ政権の関税政策や景気後退のリスクを背景に「4,000ドルは視野に入っている」と述べ、当時から需要の強さ次第では早期に予測を上回る可能性を示唆していました。その後、実際の金価格は2025年10月初旬に4,000ドルを突破し、同社の想定よりも早いペースで上昇しています。一方で、ゴールドマン・サックスは最新レポート(2025年10月7日付)で、2026年12月に金価格が4,900ドルに達するとの見通しを示し、予測を上方修正しました。こちらも引き続き強気のスタンスを維持しています。
一方、フランスのBNPパリバはやや慎重で、「貿易摩擦の激化が続かなければ下半期のモメンタム維持は難しい」と指摘しています。日本のマーケットアナリスト豊島逸夫氏も「米利下げ期待が後退すれば一転して金売りが進む可能性がある」と警鐘を鳴らしています。つまり、上昇基調は続くとみられるものの、政治情勢や金融政策の変化には注意が必要です。
投資家へのアドバイス — 高値だからこそ乗るべき波
金価格が4,000ドルを超えたことで、「今さら買うのは怖い」と感じる投資家もいるでしょう。しかし今の上昇は、単なるブームではなく世界的な需給構造の変化によるものです。中央銀行の金買いが継続し、新興国がドル依存から脱却しようとする流れは短期的に終わりません。この大きな潮流に乗ることが重要であり、「高値だから買いにくい」と躊躇する必要はないと私は考えています。
ただし、投資初心者・中級者の方が一度に大きな額を投じるのは避けましょう。以下のポイントを参考にしてみてください。
⚫︎1 長期的な視野で分散投資を行う
金は株式や債券と相関が低く、ポートフォリオの保険として機能します。全資産を金に振り向けるのではなく、5~10%程度を目安に組み入れると良いでしょう。
⚫︎2 ドルコスト平均法を活用する
価格変動の大きい商品ほど、一度にまとめて買うよりも定期的に少額ずつ買い進めることで平均購入価格を抑えられます。金のような長期保有向きの資産には有効です。
⚫︎3 複数の手段を組み合わせる
現物を少量持ちつつ、金ETFや純金積立など流動性の高い商品を活用することで、保管リスクや手数料を抑えながら金価格の上昇・下落の動きにあわせて投資できるようになります。中央銀行同様、金ETFへの資金流入が価格を押し上げている点にも注目してください。
⚫︎4 世界情勢にアンテナを張る
金価格は政策リスクや地政学的リスクに敏感に反応します。米国政治や中東情勢、ロシア・ウクライナ情勢などが緩和すれば調整局面もあり得るため、ニュースには常に目を通しておきましょう。
金はこれまで何度も歴史的高値を更新しながら長期的なトレンドを築いてきました。今回の4,000ドル突破は、各国中央銀行が金を買い集める構造的な流れと米国政治の混乱が重なった結果です。投資家としては、この大きな波に乗りつつリスク管理を徹底することが求められます。
まとめ
2025年3月に掲載した記事では、当時多くのアナリストが「年末までに3,500ドル」と予想していましたが、金価格はその後急伸し4,000ドルを突破しました。UBSやゴールドマン・サックスなど主要金融機関の予測も軒並み上方修正されましたが、それでも実際の上昇には追いついていません。背後には、トランプ政権による関税政策や米政府閉鎖、世界各地の地政学リスクといった不安要因、そして中央銀行による記録的な金買いがあります。ジュエリー需要は高値によって減少しましたが、投資需要と中央銀行の買いが市場を支えています。
今後も金市場には上下動があるでしょう。しかし大きな流れとしては、ドル依存からの脱却を目指す国々の動きや投資家のリスクヘッジ需要が続く限り、金は堅調に推移する可能性が高いと考えます。投資家の皆さんには、短期的な価格変動に一喜一憂するのではなく、長期的な視点で資産を構築していく姿勢が求められます。「金価格上昇の波に乗れ!」というメッセージを胸に、落ち着いて行動していきましょう。参考にして下さい。